政子の思い、実衣の思い、そして首無き亡骸の手を握る千世の思い

亡き実朝の手をとる千世(演・加藤小夏)。(C)NHK

I:さて、実朝が亡くなって、首のない亡骸が御所に運ばれました。実朝が当日の朝に詠んだと伝わる〈出でて去なば  主なき宿となりぬとも  軒端の梅よ春を忘るな〉の和歌が挿入されて、いっそうこみあげてくるものがありました。

A:現職の将軍が右大臣就任を祝う式場で殺害され、その実行犯が甥でしかも鶴岡八幡宮の別当を務めている公暁だった。源氏一族が聖俗一体化して鎌倉を統べるという意図があったと思いますが、一夜にして瓦解してしまいました。源氏が聖俗一体化してまとまるということを忌避したい勢力があったのかとも考えてしまいます。

I:この事件の帰趨について、実朝の母で公暁の祖母である政子(演・小池栄子)の心情がどうだったのかというのが気になります。そして、乳母子の実朝を亡くした実衣(演・宮澤エマ)の心情も。実衣は『吾妻鏡』などでは阿波局と称される女性ですが、夫で頼朝の弟である阿野全成(演・新納慎也)が、頼家(演・金子大地)の命で謀反の咎で誅殺されています。その頼家の息子の公暁に乳母子の実朝が殺されるわけですね。

A:現代的な感覚では、半狂乱になってもおかしくない状況です。当時者である彼女たちはどのように受け止めていたのでしょうか。これはもうまったく心情を記した史料など残っていないわけですから、想像するしかないわけですが……。

I:そして、夫である実朝を亡くした正室の千世(演・加藤小夏)が首のない亡骸の手を大事そうに握っている姿に泣けてきました。京都から鎌倉に下ってきて、鎌倉殿の御台所になった千世ですが、まさかこんな境遇になるとは思わなかったでしょうに。

A:劇中で強いなと思ったのは、実衣が実朝の後継者として息子の時元(演・森優作)を就けることを諦めていないことでした。時元は頼朝の甥にあたるわけですし、父母が源氏と北条ですから、御家人たちが了とすれば成立していたかもしれません。

I:劇中では描かれませんでしたが、実はこの段階で頼朝が侍女に産ませて出家していた貞暁が高野山に健在で(https://serai.jp/hobby/1098724)、仁和寺に入室していた頼家の男子禅暁もいました。

A:源氏の血筋にこだわるのであれば、まだ候補者はいた。にもかかわらず、京から親王を迎えようとしているわけです。

公暁を殺めた三浦義村、そして義時の野望

義村(演・山本耕史)を頼った公暁だったが……。(C)NHK

I:公暁が政子に対面して、その足で三浦義村(演・山本耕史)の屋敷に逃げていきます。公暁にとっては自分を匿ってくれる、あるいは打倒北条のために共闘してくれると信じ切っていた存在だったのでしょう。劇中では、無防備に食事をとっている時に、いとも簡単に三浦義村が公暁を刺し殺しました。公暁は三浦義村の乳母子ですよ。ちょっとあまりにも三浦義村、ひどすぎるよ、と思って見ていました。

A:これまで何度も登場した三浦義村の保身術というか、手のひら返しというか、義村に対する怒りがふつふつと湧きあがる仕上がりになっていました。この実朝暗殺事件には三浦義村黒幕説というのがありますが、本作を見ていると、それに加えてもっともっと大きな闇の力が働いていたような気がしてきました。

I:どの人物の気持ちに寄り添うかで解釈が変わってくる感じですね。私は、鎌倉の闇が複雑に絡み合って、こんがらがってこういう結末を迎えたと感じました。

A:結局、義時は政子を利用して、〈頼朝様のご威光を示すことができるのはあなただけだ。むしろ立場は今まで以上に重くなります〉と言い放ちます。そして、義時は〈今こそ北条の世を作るのです。邪魔をするものはもういない〉と本心を吐露します。先走ってしまいますが、やがて北条家の嫡流は義時の法名である「得宗」からとった「得宗家」を称するようになります。そして、幕府の要職をほぼ北条一族が独占するにいたり、圧倒的な権力を保持します。

I:そして、いよいよ西の方=後鳥羽上皇(演・尾上松也)が義時と対峙することになります。

A:残り3話しかありません。「もう3話しかないのか」と寂寥感も覚えます。圧倒的に尺が足りないと思われる中で、「政子一世一代の歴史的場面」を始め、見逃せないシーンがまだまだ残っています。どういう展開になるのか。心して待ちたいと思います。

仲章(演・生田斗真)のおかげ? で命拾いした義時(演・小栗旬)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。

●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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