奈良時代、貴族の娘として生まれた中将姫。姫は実母の死後、継母にうとまれ継母の家来に山中で殺されそうになります。しかし美しく清らかな心をもつ姫に心動かされた家来のはからいで一命をとりとめ、やがて父と再会して都に戻ります。そして、當麻寺で出家。極楽浄土への思いを募らせていると、阿弥陀如来と観音菩薩の化身が現れ、蓬糸で織り上げた曼荼羅で極楽の姿を示しました。姫はその後29歳で、阿弥陀の来迎を受けて無事極楽浄土へ往生したと伝わります。
この夏、當麻寺曼荼羅の最も精密で色鮮やかな写し(貞享本)の本格的修理が終わったことを記念した展覧会が開かれています。(8月28日まで)
本展の見どころを、奈良国立博物館の学芸部主任研究員、北澤菜月さんにうかがいました。
「奈良・當麻寺の本尊である綴織當麻曼荼羅(国宝、當麻寺蔵)は、およそ1260年前に現れた奇跡の曼荼羅として尊ばれてきました。そして、極楽浄土の様子を表す曼荼羅の成立に、極楽往生を望んだ奈良時代の貴族の娘である中将姫が関わったという伝承は、鎌倉時代から現在にいたるまで、広く知られています。
當麻曼荼羅と中将姫への長い信仰の歴史のなかで、およそ4メートル四方の巨大な織物である綴織當麻曼荼羅の絵画による写しが多数描かれてきました。中世以降、縮小版が多数作られた一方、同じ大きさの写しも製作されています。そのような中で、最も詳細に綴織當麻曼荼羅の図様を伝え、鮮やかな色彩で描かれた名品が、江戸時代の延宝7年(1679)に描かれ、貞享3年(1686)に霊元天皇の宸筆を得て完成した、貞享本當麻曼荼羅(重要文化財、當麻寺蔵)です。
本展では、修理を終えた貞享本の美しい姿をご覧いただき、修理過程で確認された資料を紹介しながら、貞享本製作プロジェクトの全貌をお示しします。そして貞享本の製作を當麻曼荼羅信仰史のひとつの画期と捉え、周辺の當麻曼荼羅信仰や、連動する中将姫信仰の動向についても、くわしくご紹介します。日本一の霊像として信仰され続けてきた當麻曼荼羅と、女人往生の主人公として長く愛されてきた中将姫が人々に尊ばれ、そして人々を救ってきた歴史に触れていただければ幸いです」
国宝、重要文化財クラスの宝物や美術品が並びます。ぜひ会場でご鑑賞ください。
【開催要項】
貞享本當麻曼荼羅修理完成記念 特別展 中将姫と當麻曼荼羅-祈りが紡ぐ物語-
会期:2022年7月16日(土)~8月28日(日)
会場:奈良国立博物館 西新館
住所:奈良市登大路町50番地
電話:050・5542・8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分から18時まで、土曜日は19時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし7月18日、8月15日は開館)、7月19日(火)
公式HP:https://www.narahaku.go.jp/
料金:HP参照
アクセス:HP参照
取材・文/池田充枝