101歳のいまも活躍する現役の日本最高齢ピアニスト、室井摩耶子さん。自分らしく、幸せに生きるコツは、「わたしという『個』、わたしの『心とからだ』の声に従ってきたから」だと言います。そんなマヤコさんの生きる指針をご紹介します。「人生100年時代」と言われるいま、将来の暮らしに漠然とした不安を持っている方のヒントになるはずです。
文/室井摩耶子
年齢を重ねると、小さなことでも「できる」とうれしい
ネットでブログを発信する人のことを「ブロガー」というそうですが、わたしもブロガーのひとりなんですよ。しょっちゅう、更新するというわけにはいきませんが、それでもときおり、あれこれ書き込んでいますし、読者の書き込みにだって(すべてにできないこともありますが)お返事しています。
パソコンでブログを始めたのは、85歳の夏です。「難しそう!」よりも「面白そう!」が勝りました。8年前にはダブレットというの? あの薄っぺらい板を手に入れて、それを触ってブログを更新しています。
案の定、毎度のように、「なんで何も出て来ないの? なんで思うものが出て来ないの?」と困惑しながら続けています(ちょっと前なら、新しいことが嬉しくて、すぐにマスターしてしまったでしょうに)。なかなか思うようにならないのも面白いですね。バスや電車の中で、指を高速に動かしている若い人を見かけると、もう羨望の眼差しです。
でも何も焦ることはないと思うの。マイペースでいいんじゃないかしら。年寄りがひとつできると、それはもう天に昇るような気持ちになるんだから。クリックがうまくいっただけで嬉しくなるのは「老い」を楽しむための秘訣かもしれないわね。
若い人たちにとっては「できて当たり前」だけど、わたしたちは「できなくて当たり前」。だからどんな小さなことでも、できると嬉しいものです。
友人の息子さんを先生に
そんなわたしが、パソコンで年賀状を作り、デジカメで写真を撮り、タブレットでブログを更新する。インターネットであれこれ検索だってしてしまいます。なぜそんなことができるの? と驚かれるかもしれませんが、これには、秘密があるんです。
実は、素晴らしい先生がいるのです、わたしには! 友人の息子さんに「パソコンの先生」になっていただいています。「メールがうまく送れないんだけど、どうしたらいいかしら?」こんな単純なことまで、わからなければ聞いてしまいます。そのうち、その会話そのものを楽しんでいる自分がいます。
そう、「何でも自分でやる」と思わなければ、実は何だってできるのです。掃除ができなければヘルパーさんに頼めばいいし、からだのことは医者に聞けばいい。
わたしはピアニストですが、ピアノの調律はできません。その世界にはその世界を知る人がいるのだから、甘えてしまえばいいんです。
これはあの人にお願いして、あれはこの人に頼んで……と考えていくと、ひとりでも何も怖いものはありません。多かれ少なかれ、みんな誰かに支えられながら生きているのですから。
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『マヤコ一〇一歳 元気な心とからだを保つコツ』(室井摩耶子 著)
小学館
室井摩耶子(むろい・まやこ)
大正10年4月18日、東京生まれ。6歳でピアノを始める。東京音楽学校(現・東京藝術大学)を首席で卒業後、同校 研究科を修了。昭和20年1月に日本交響楽団(NHK交 響楽団の前身)演奏会でソリストとしてデビュー。昭和30年、映画『ここに泉あり』にピアニスト役(実名)で出演。昭和31年にモーツァルト「生誕200年記念祭」に日本代表としてウィーン(オーストリア)へ派遣され、同年、第1回ドイツ政府給費留学生としてベルリン音楽大学(ドイツ)に留学。以後、海外を拠点に13カ国でリサイタルを開催、ドイツで「世界150人のピアニスト」に選ばれる。59歳のとき、演奏拠点を日本に移す。CDに『ハイドンは面白い!』など。平成24年、新日鉄音楽賞特別賞を受賞。平成30年度文化庁長官表彰。令和3年、名誉都民に選定される。101歳のいまも活躍する現役の日本最高齢ピアニスト。