本年は、日本画の巨匠であり、美人画を得意とした鏑木清方(1878―1972)の没後50年の節目にあたります。美人画の清方と言われますが、清方が興味を置いたのは市井の人々の生活でした。美人画ばかりが注目されがちな清方をとらえなおす展覧会が開かれています(5月8日まで)。
切手にもなった《築地明石町》はじめ、重要文化財の《三遊亭円朝像》から初公開となる《雪紛々》や《泉》まで、約110点が一堂に会す大規模な回顧展です。
本展は、東京会場と京都会場(京都国立近代美術館)の2会場で開催され、東京会場は作品のテーマ別に年代順に、京都会場は全体を通して年代順に、というように構成を変えて展観します。
本展の見どころを東京国立近代美術館の主任研究員・鶴見香織さんにうかがいました。
「清方と言えば美人画家として定評がありますが、意外にも美人画というには収まりの悪い作品も多かったりします。それは清方が市井の人々の生活や、人生の機微を描こうとしていたからに他なりません。女性の姿かたちだけでは決して成立しない、そんな清方作品の個性に注目し、本展ではよくある美人画を少なくして、代わりに清方の自己評価が高かった作品を積極的にラインナップに加えました。
それを東京会場では、『生活をえがく』『物語をえがく』『小さくえがく』の三章構成で紹介しています。なかでも中心となるのが第一章の『生活をえがく』です。皆さんお待ちかねの《築地明石町》も、30年ぶりの公開となって話題の《ためさるゝ日》(左隻)もこの章に登場します。
ところで、会場で少し話題になっているのが清方の自己評価です。会場の各作品の解説には☆がついているものがあり、☆の数は、清方の制作控帳に自身が付けていた自己採点(1918年1月~1925年12月)に基づいています。本展で☆がつくのは23点だけですが、これにも注目してください。(公式サイトにある作品リストにもついています)。
本展で清方のイメージが変わったと言ってくださる人がいたとしたら、企画者として本望です。清方の美人画しか知らないなんて本当にもったいない。市井の人々に共感をもって迎えられる市井の画家を目指した清方は、もっと大きなくくりで人間や生活を見つめた画家でした。清方の真の姿をこの展覧会で発見してもらいたいと思っています」
心洗われる清らかで澄んだ作品の数々。会場でじっくりご鑑賞ください。
【開催要項】
没後50年 鏑木清方展
会期:2022年3月18日(金)~5月8日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
電話:050・5541・8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし3月21、28日、5月2日は開館)、3月22日(火)
展覧会公式サイト:https://kiyokata2022.jp
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照
巡回:京都国立近代美術館(5月27日(金)~7月10日(日))
取材・文/池田充枝