一度強い痛みを経験すると、その恐怖から考え方や行動が変化して、かえって回復から遠ざかってしまう場合があります。
これを『痛みの悪循環』といいます。
そこから抜け出す方法をご紹介します。
思考や行動が痛みに影響する
ある日突然腰に強い痛みがおこったとします。
普通の急性腰痛、いわゆるギックリ腰ならば、たいてい1~2週間程度で回復していくのですが、突然急に強い痛みがおこれば誰でも怖くなりますよね。
それは仕方ありません。
しかし、不必要に痛みを怖がり過ぎて身体を動かさないようにしてしまったりすると、かえって痛みが悪化したり、なかなか治らなくなってしまったり……、という悪循環になってしまうことがあります。
これを『恐怖-回避モデル(fear-avoidance model)』といいます。痛みの悪循環ともいわれます。
『痛みの悪循環』は次のような図で簡易的に説明されます。
上の図の左側が『痛みの悪循環』です。簡単に説明していきましょう。
腰痛では、程度にもよりますが、今まで体験したことのないような、一大事と思うような強い痛みを感じることがあります。
そのあとの感じ方が回復の分かれ道。
左のサイクルではその痛みに恐怖を感じてしまい、痛みを感じる動作をすることが怖くなったり、ケガを怖れたりと、なるべく痛みを避けよう避けようとする考え方や行動パターンになっていきます。
すると身体を動かさなくなりますので、運動量が減ってしまいます。
運動量が減ってしまうと、筋力が低下したり血行が悪くなったりといった障害が発生します。
また心理的には抑うつ状態になってしまいます。
落ち込みやすくなったり、普段していた活動をやめてしまったり、そのことによって自己肯定感が低下したりと、鬱々とした状態になっていきます。
そうすると、より痛みが悪化してしまいます。するとさらに身体を動かさなくなり、抑うつ状態が進行し……、とどんどん悪循環に陥ってしまうのです。
このような悪循環は、例えば腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの診断がついた場合でも、とくに背骨など身体的な異常が見つからない場合でも、同じようにおこります。
ごく有り体に言うならば、心配しすぎてしまうとおこりやすいのです。
あなたも心当たりがありませんか?
痛みの悪循環から脱するには
それは先ほどの図の右側のように、痛みを怖れず立ち向かうことです。
それによって慢性痛状態から痛み回復のサイクルに入っていくことができるのです。
とはいえ、一度悪循環に陥ってしまうと、なかなか恐怖心は拭えないですよね?
このような場合、筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/index.html)では、まず
A.痛みのおこらない、または気持ちよく感じる運動
または、
B.痛みはあっても十分耐えられる、怖くない運動
を見つけて、それを少しずつ実践することをおすすめしています。
Aは例えば、寝ておこなえるごく軽いストレッチや腹式呼吸のエクササイズなどがあります。
Bは、5~10分程度の散歩やウォーキング、または自転車に乗れるならば30分程度のサイクリングなどをおすすめしています。
このような運動を少しずつおこない、段階的に運動量や負荷を増やしていきます。
例えばストレッチの種類を増やしたり、軽い筋トレに移行したり、ウォーキングやサイクリングの時間を伸ばしたりといったことです。
このようにちょっとしたチャレンジを無理なくおこなうことが、自然と痛みを怖れず立ち向かう行動になるわけです。
運動量の増加にともなって血行が改善したり筋力が回復したり、抑うつ状態から回復したりといった効果があらわれ、必ず慢性痛は回復していきます。
悪循環から脱して回復のサイクルに入っていくことができるのです。
痛みのおこりにくいエクササイズは腹式呼吸
先ほど【痛みのおこらない、または気持ちよく感じる運動】の例として腹式呼吸をあげましたが、このエクササイズは腰を支えるインナーマッスルを回復強化する効果もありますので、とくに初期段階のエクササイズとしておすすめしています。
そのやり方をご紹介します。
自宅で出来る!腰痛トレーニングDVDより(https://www.re-studio.jp/dvd.html)
※以下の解説では、専用のポールに乗った状態でおこなっていますが、ポール無しで床に寝た状態でおこなっても問題ありません。
腹式呼吸の基本姿勢
1.床にあおむけになり両膝を立てた姿勢をとります。
2.そこから鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口をすぼめて天井に息を吹きかけるようにしっかりと吐き切っていきます。
この時に、おへその下あたり(下腹部)をへこますようにしながら息を吐いていきます。
下腹部をへこますようにしっかりと息を吐ききることで、腹横筋に力が入るようになります。
息を吸うのは軽く、吐くときはお腹の底からしっかりと吐き切るようにしましょう。
息を吸うときも吐くときも、背中や腰、首肩、脚などは力を入れないようにしてください。お腹だけを使って呼吸をおこなうようにします。
3. 息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締める
息を吐ききると同時に、下腹部(腹横筋)と肛門(骨盤底筋)を同時に締めます。
うまくしっかり吐き切りながら肛門を締められると、下腹部に強く力が入り、固くなるのがわかります。
またこの時も背中や腰や脚は力を抜いてください。
背中や腰や脚に力が入ってしまうと、かえって痛みを起こしやすくなりますので注意してください。
4.息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締め、恥骨を引き上げて腰を丸め、床に押し付ける。
恥骨を引き上げるとは、みぞおちの方に向けて腹筋で引き上げるようにすること(下画像オレンジ矢印)です。
すると骨盤は後傾方向に回転します(黄色矢印)。
こうすることでさらに腹圧が高まりやすくなり、腰をしっかり支える姿勢をとりやすくなります。
これを1日20~30回を目安におこないましょう。
このトレーニングをおこなうことで痛みが出たり、または痛みのためにこのトレーニング自体ができないようでしたらやめてください。
この記事が慢性腰痛改善の一助になれば幸いです。
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拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html