沖縄県では、戦前から導入され伝統的に食されてきた沖縄固有の野菜を「伝統的農産物」と定めています。おなじみのゴーヤーをはじめ、ナーベーラー(へちま)、フーチバー(よもぎ)、ハンダマ(水前寺菜)など、合計28の野菜が認定されています。
これらの野菜、一般的には「島野菜」といったほうが、通りがよいかもしれませんね。
今回ご紹介する「クワンソウ」も、そのひとつ。ユリ科に属し、和名は「あきのわすれぐさ」といいます。別名は「カンゾウ」ですが、漢方薬に使われる「甘草」とは違う植物です。
しかし、このクワンソウにも古くから薬効が伝えられ、また最近では科学的にもその効能が解明されてきています。沖縄ではクワンソウのことを「にぃぶい草」とも呼びます。「にぃぶい」とは「眠り」を意味し、昔から安眠をもたらせてくれる薬草として利用されてきたのです。
わたしがその名前を初めて知ったのは、『サライ』本誌の睡眠特集でした。睡眠科学が専門の大学教授に取材した際、沖縄に安眠効果のある薬草があってサプリメントなどにもなっている、と教えてもらったのです。沖縄では、葉を乾燥させてお茶にしたり、茎を煎じて利用されてきたそうです。
クワンソウは、9月から11月頃には可憐なオレンジ色の花を咲かせますが、その花も食用にします。そんなクワンソウの花畑があると聞き、沖縄本島北部、今帰仁(なきじん)村を訪ねました。
花畑があるのは『今帰仁(なきじん)ざまみファーム』という農園。同園の座間味(ざまみ)久美子さんは、農園で栽培したクワンソウの花を、ピクルスやジュレにして商品化しています。
「15年ほど前から栽培を始めましたが、認知されてきたのはここ5年ぐらいです。花の時期には、多くの観光客がいらっしゃいますよ。島内の方の中には、庭にこの花が咲いていると言われる方も。キレイな花なので観賞用に楽しむだけで、薬草だったことは忘れ去られているのですね。琉球王朝時代には中国からの使者団、冊封使の接待料理にも出されました」(座間味さん)
「2月から6月にかけては、茎は野菜としても出荷しています。シャキシャキした食感で、ニンニクの茎のように使います。昔からよく食べられてきたのは、豚肉と一緒に長時間煮た『シンジムン』(煎じた汁物)。薬膳料理の一種ですね」(座間味さん)
さらに、クワンソウを含むカンゾウ類の蕾(つぼみ)は「金針菜(キンシンサイ)」として、中国料理の高級食材になります。
花、茎、葉、そして蕾までを利用できるクワンソウ。まさに、注目の島野菜です。
【今帰仁ざまみファーム】
住所/沖縄県今帰仁村字上運天1233—1
電話/0980—51−5182
http://zamamifarm.com/
ちょうどクワンソウの花の季節に合わせて、松本料理学院でその花を使った甘酢漬を教えていたのでご紹介します。
クワンソウの花の甘酢漬の作り方
(1)同量の酢と砂糖に、塩少々を加えて甘酢を作っておく。
(2)クワンソウの花の雄しべの先(花粉)をきれいに取り除いて洗う。
(3)たっぷりの湯を沸かして色止め用の酢を加え、クワンソウを約3分茹で、熱いうちに甘酢に漬け込む。
(4)ふた付きの広口びんに移して保管する。
「琉球料理は、ともすると色彩の豊かさに欠けるところがあります。そのなかで、このクヮンソウの甘酢漬は鮮やかなオレンジ色で、華やかさを演出してくれます。冷蔵保存すると、1年ほど長期保存ができるので、花の季節に作っておくと便利です」(松本料理学院長 松本嘉代子さん)
松本先生は「クワンソウ」ではなく、「クヮンソウ」と発音されます。このほうが耳にやさしく響く、ウチナー口(沖縄の人のしゃべる言葉)に近くなります。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。