年末年始の時期にぎっくり腰をおこしてしまうケースは少なくありません。
病院も休みの時期に万が一ぎっくり腰になってしまったらどうしたらいいのでしょうか?
わかりやすく解説します。
『大掃除で腰を痛めてしまった……』
『休みに入った途端ぎっくり腰で動けなくなった……』
『寒さで腰痛が悪化した……』
筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/index.html)には、寒さが厳しくなる年末年始にこのような相談が増えてきます。
年末年始に腰を痛めてしまうと、休暇が台無しになるだけでなく、病院にもかかれずに苦しむことになりかねません。
日頃から体調に気をつけて予防をしていただきたいと思いますが、もし万が一ぎっくり腰になってしまったら、この記事を参考に、正しい対処法を知ってできるだけ早く回復させましょう。
『ぎっくり腰』とは
日本整形外科学会のHP(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/acute_low_back.html)によると、次のように説明されています。
いわゆる「ぎっくり腰」は急に起こった強い腰の痛み(腰痛)を指す一般的に用いられている名称(通称)で、病名や診断名ではありません。
何か物を持ち上げようとしたとき、腰をねじるなどの動作をしたときなどに起こることが多いですが、朝起きた直後や何もしないで起こることもあります。
痛みの原因はさまざまで、腰の中の動く部分(関節)や軟骨(椎間板)に許容以上の力がかかってけがしたような状態(捻挫、椎間板損傷)、腰を支える筋肉やすじ(腱、靱帯)などの柔らかい組織(軟部組織)の損傷などが多いと考えられます。
『ぎっくり腰』の予兆
『ぎっくり腰』にはっきりとした原因はなく、さまざまな要因が重なっておこると考えられます。
季節要因はないと考えられていますが、筆者の体感としては、やはり季節の変わり目や12月~1月頃の寒くなりはじめの時期に多い印象があります。
そして、多くの方はぎっくり腰になる前に何らかの予兆(不調)を感じています。例えば、
■背中や腰がすごく張っていた、または痛みがあった
■首や肩がものすごくこっていた
■脚や腰が冷えた
■ものすごく疲れていた
といったようなことです。
これは疲労が溜まっている兆候です。
年末年始の多忙な時期に、冷え、疲労、暴飲暴食、睡眠不足などが重なると、ぎっくり腰を起こしやすくなるということです。また、年末の忙しさを乗り切って休みに入った途端、疲れがどっと出てぎっくり腰で動けなくなる……、というのもよくあるパターンです。
『ぎっくり腰』の経過
ぎっくり腰(急性腰痛)の経過は、多くの場合良好です。
1週間以内に約40%の人が回復し、3週間で60~85%、6週間以内に90%の人が回復するというデータがあります。
1~6週間ほどでほとんどの人が良くなりますので、痛みはつらいと思いますが、あまり心配はありません。
「3日激しく痛んで、1週間で良くなる」というのが、典型的な回復パターンです。
腰を痛めた直後の2~3日はかなり強い痛みに襲われます。
しかし日に日に痛みは薄れていき、1週間程度で痛みはかなり楽になります。
危険な症状
ほとんどの『ギックリ腰(急性腰痛症)』はあまり心配ありません。
しかし、中には危険な病気やケガが原因で腰痛がおこり、場合によっては命に関わることもあります。
例えば骨折、悪性腫瘍、脊椎感染症、解離性大動脈瘤、強直性脊椎炎、馬尾症候群、腎臓結石・尿管結石、膵炎(すい炎)、婦人科系の病気などです。
次の項目は『レッドフラッグ』といい、腰痛とともに現れていた場合に、危険な病気が疑われる症状です。
もしいくつか該当するものがあれば、病院で精密検査を受けることをおすすめします。
◆最近高い所から落ちたり、交通事故にあったりした
◆絶えず痛みがある(夜間も痛む、楽な姿勢がない、動作と無関係に痛むなど)
◆胸にも痛みがある
◆悪性腫瘍の病歴がある
◆長期間ステロイド剤を使用している、または使用していた
◆覚せい剤などの静脈注射、免疫抑制剤の使用、HIV陽性
◆全般的に体調が悪い
◆原因不明で体重が減少している
◆腰を前に屈めることができない、その状態が続いている
◆背骨を叩くと痛みがある
◆身体が変形している
◆発熱がある
◆排尿しづらい、残尿感、尿失禁、便失禁、肛門や会陰部の感覚消失などがある
これらにあてはまるものがあったとしても必ずしも危険な病気があるとは限りませんが、検査をしなければ判定が出来ません。安心するためにも病院で検査を受けましょう。万が一危険な病気やケガが見つかった場合は、医師の指示に従い、腰痛そのものより原因となっている病気やケガの治療に専念してください。
『ぎっくり腰』の対処法
上記のような危険な症状がない場合、単純なぎっくり腰(急性腰痛)であれば、病院が休みで診てもらえないような場合でも自分で対処することもできます。
対処法には次のようなポイントがあります。
(1)安静にし過ぎないでなるべく活動性を維持する
(2) 痛み止めの薬(鎮痛剤)を服用する
(3)患部を温める(温熱療法)
(4)必要に応じて腰痛ベルト(コルセット)を使う
以下にエビデンスも紹介しながら具体的な対処法をご説明します。
(1)安静にし過ぎないで、痛みの程度に応じて活動性を維持する
以前はぎっくり腰になったらまず安静を指示されていました。
今でも病院や医師によっては安静を指示されることもありますが、近年では『安静の効果は低い』というエビデンスレベルの高い報告が多数出てきています。
男女問わず、16〜80歳の急性腰痛(発症から4週間未満、または慢性腰痛が悪化してから4週間未満のもの)を対象にした場合、非特異的腰痛に対しては、ベッド上安静が痛みに応じた活動性維持よりも、痛みの程度と身体機能の面でより劣っている。
The updated cochrane review of bed rest for low back pain and sciatica.
Spine (Phila Pa 1976). 2005 Mar 1;30(5):542-6.
( https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15738787)
しかし、痛みが強い場合は動きたくても動けないということもあるでしょう。
以下に痛みの程度によってどのようにしたら良いかを解説します。
痛みが強く動けない場合
腰を痛めた直後などは、痛みで動けないか、動くのがとても怖いかもしれません。まずはあまり痛まない姿勢でしばらく安静にしましょう。少し休むことで痛みがやわらぐことも多いので、できたら横になって楽な姿勢をとってください。
●横向きで膝を曲げ、体を少し丸める
●仰向けで膝の下にクッションなどを入れ、軽く膝を曲げる
などの姿勢が良いでしょう。抱き枕などを使うのも良いと思います。
数十分~数時間安静にすると、少し動けるようになるかもしれません。それでも動くと激しい痛みがある、とても動けそうにないという状態でしたら、後述するように痛み止め(鎮痛剤)なども用いながら、ある程度痛みがおさまるまで1~3日程度は安静にした方が良いでしょう。ただし、3日以上の安静は、かえって回復が遅くなってしまうということがわかっています。
長期にわたって安静を維持したり、仕事や学校を休んだりした場合は回復が遅れてしまう可能性があります。
痛みはあるがなんとか動ける場合
なんとか動けるようなら、無理のない程度になるべく日常生活を続けてください。できるだけ仕事や学校、家事など日常生活を続けた方が、筋力体力を維持することができて回復が早いのです。無理をしたり、ストレッチなどの運動をあえてしたりする必要はありませんが、痛みに負けず(この気持ちが大事!)、できるだけいつもどおりの生活を送ってください。
(2)鎮痛剤を服用する
最新の「腰痛診療ガイドライン2019」では、「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である」として、強く推奨されています。
腰痛診療ガイドライン2019で、急性腰痛に対する各薬剤の推奨度とエビデンスの強さは以下のとおりです。
非ステロイド性抗炎症薬→推奨度1、エビデンスの強さA
筋弛緩薬→推奨度2、エビデンスの強さC
アセトアミノフェン→推奨度2、エビデンスの強さD
その他弱オピオイドなども推奨されています。
非ステロイド薬としては、昔からアスピリンがよく知られていますが、現在では多くの薬品が開発・使用されています。代表的な薬として、ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)、インドメタシン(インダシン)、イブプロフェン(ブルフェン)などがあります。
これらの薬は薬局ドラッグストアなどでも市販され手に入りやすいものですが、使用にあたっては医師や薬剤師に十分に相談のうえ使用してください。
また湿布にも同様な効果がありますので、適宜使用をお勧めします。
(3)患部を温める(温熱療法)
急性腰痛(発症から4週間未満)と亜急性腰痛(発症から4週間以上、かつ、3か月未満)においては、温熱療法が強く推奨されています。
治療に関係なく、急性または亜急性腰痛の患者のほとんどが時間の経過とともに改善することを考えると、臨床医と患者は、表面熱(中等度の質のエビデンス)、マッサージ、鍼治療、または脊椎操作(低品質のエビデンス)を伴う非薬物治療を選択する必要があります。(グレード:強く推奨)
Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians.
Ann Intern Med. 2017 Feb 14.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28192789)
■お風呂で温まる
■レンジで蒸しタオルを作り患部に当てる
■使い捨てカイロで患部を温める
などはあまり費用もかからず、自分で出来る効果的な対処法です。
ただし、炎症がある場合は温めることでかえって痛みや症状が悪化することがありますのでご注意ください。また炎症がなくても温めることで悪化する場合もありますので、そのような場合は速やかに温熱療法を中止してください。
(4)必要に応じて腰痛ベルト(コルセット)を使う
痛みが強く、体を動かすのに不安がある場合、一時的に腰痛ベルト(コルセット)を使うこともお勧めです。
コルセットを装着すると腹圧を高める助けになりますので、体幹(腰)を支えやすくなり、動作が楽に安心になります。それにより活動性の維持ができますので、結果的に回復が早まる可能性があります。しかし長期間の使用は、かえって筋力低下を招く場合がありますので避けましょう。
この記事がぎっくり腰になってしまった際の一助になれば幸いです。
以下の記事でも腰痛改善法をご紹介していますので、ぜひお読みください。
年末年始はぎっくり腰に注意!予防するには3つのエクササイズ【川口陽海の腰痛改善教室 第54回】(https://serai.jp/health/1012047)
片側の腰が痛いときに効くツボ(トリガーポイント)とストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第75回】(https://serai.jp/health/1044313)
腰痛改善には骨盤を整える股関節のストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第70回】(https://serai.jp/health/1034491)
腰痛持ちに良い腹筋 悪い腹筋|本当に正しい腰痛トレーニングとは【川口陽海の腰痛改善教室 第69回】(https://serai.jp/health/1032786)
オススメの腰痛・坐骨神経痛改善ストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第61回】(https://serai.jp/health/1020567)
拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html