文・石川真禧照(自動車生活探険家)
100台限定のリース専用車として発売された「レジェンド」は、国土交通省から自動運転レベル3の型式指定を得た“今もっとも未来に近い車”。その真価は高速道路での渋滞時に発揮される。
長距離も渋滞も苦にならない疲れ知らずのハイブリッド車
ホンダがこの春、世界で初めて自動運転レベル3の型式指定を取得した新型『レジェンド』を発売し、話題になっている。
実際に高速道路で試してみた。前面パネルに表示が出たら、ハンドル上のボタンを押す。これでハンズオフが可能になり、車のシステムが前走車との車間距離を保ち、カーブでは自動的にハンドルを操作してくれる。高度車線変更支援スイッチをオンにすると、遅い先行車を検知して目視での確認を促し、追い越してもとの車線へ復帰するまで、運転支援を行なう。
しかし、報道で「自動運転」という言葉が一人歩きしてしまった感もある。発表から数日後、販売店にやってきた中年の男性が、話題のレジェンドの試乗車に乗りこみ、しばらく運転席に座ってから、販売員に「動かないじゃないか」と言ったそうだ。「自動運転」なのだから、運転者が何もしないでも目的地まで行ってくれるのでは、と思ったのだろう。
自動運転の技術は、米国自動車技術協会がレベル0からレベル5まで6段階に整理し、日本もこの基準をもとに法整備を進めている。自動ブレーキや、車間距離を保ちながら追従する機能(ACC)はレベル1の技術。高速道路上で自動で追い越す機能などが加わるとレベル2。高速道路の渋滞時など、特定条件下での自動運転車がレベル3。レベル4は走行ルートなど限定領域の、レベル5が完全自動運転車だ。国土交通省は、2025年までに高速道路上でレベル4を達成する目標を掲げている。
自動運転にもっとも近い車
自動運転が実現すると、車が事故を起こした場合に、責任は車にも課される。レベル2までは運転者が、レベル3は運転者とメーカーが、レベル4以上はメーカーが事故の責任を負う。自動車メーカーにとって、自動運転車を開発する難しさはこの点にある。
そうした難問を乗り越え、新型レジェンドは、完全自動運転の一歩手前のレベル3(条件付き自動運転車)を達成した。高速道路上の渋滞時など一定条件下でハンズオフ(手放し)の自動走行ができる。
真骨頂は、国土交通省がレベル3の認定をした「渋滞運転機能」だ。高速道路を走行中に時速30km以下の渋滞に遭遇すると、自動運転機能が発動し、周囲の状況を監視しながらアクセル、ブレーキ、ハンドルをすべて自動で操作。運転者は視線を前方から外し、のんびりと映画やテレビを観ることができるのだ。渋滞時の体の負担はもちろんのこと、心理的な疲労も大幅に減りそうだ。
高齢化が進む中で、運転が困難になった人でも気軽に移動できる社会を実現したい。そんな思いで、ホンダの技術者たちは自動運転車の開発に取り組んでいるという。近い将来、その思いが結実する日が来ることを期待したい。
ホンダ/レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite
全長×全幅×全高:5030×1890×1480mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1990kg
エンジン/モーター:エンジン:V型6気筒SOHC 3.5L/モーター:交流同期×3基
最高出力:エンジン:314PS/6500rpm/モーター:48PS+37PS×2
最大トルク:エンジン:37.8kg-m/4700rpm モーター:15.1kg-m+7.4kg-m×2
駆動方式:4輪駆動
燃料消費率:16.4㎞/L
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン 57L
ミッション形式:7速AT
サスペンション形式:前:ダブルウィッシュボーン 後:ウィッシュボーン
ブレーキ形式:前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
乗車定員:5名
車両参考価格:1100万円(リース料金は各販売会社が決定)
問い合わせ先:お客様相談センター0120・112010
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2021年9月号より転載しました。