平成29年、現在の上皇陛下が天皇在位最後の外国訪問の地に選んだのは、ベトナムだった。さらに、平成25年の第二次安倍晋三政権、令和2年の菅義偉政権と二代の総理の就任最初の外国訪問もベトナムという事実は、日本とベトナムが急速に接近し、「両国は自然の同盟国」とまでいわれる関係になっていることを象徴している。
そうした中、昨年3月まで駐ベトナム全権大使を務めた梅田邦夫氏が著した『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機 「対中警戒感」を共有する新・同盟国』(小学館刊行)が注目を集めている。
同書の、長年中国と対峙して染みついた「中国を信用してはいけない」というベトナムの行動原理には学ぶべき教訓が多いとの指摘は、一聴に値する。
中国が「敵」に対して駆使する3つの戦法(法律戦、世論戦、心理戦)や、中国駐在あるいは出張で訪れた駐在員や高官へのハニートラップの実態、日本企業に勤務する中国人従業員のメンタリティなど、中国大使館勤務も経験した筆者ならではの分析は刺激的ですらある。
7月2日には、著書の刊行を記念したオンラインセミナーが開催される(毎日新聞アジア経済研究所、小学館カルチャーライブ共催)。
ベトナムも中国同様、共産党による一党支配だが、統治スタイルが中国とは異なる集団指導体制であること、今や、ベトナムに進出する日系企業がASEAN10か国の中で1位という旺盛な経済力、ベトナムから日本にやってくる技能実習生が抱える問題点など、日本とベトナムの「対中警戒感」を共有する関係を強化すべきとする、今後キーワードとなるであろう主張に耳を傾けたい。
『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機 「対中警戒感」を共有する新・同盟国』