文・石川真禧照(自動車生活探険家)
電気や水素の車が昨今の話題だが、動力が変わっても車の基本は「走る、曲がる、止まる」である。一昨年に完成した高次元の試験路で車の基本性能を磨き抜いた新しい日本のセダンは、期待を上回る仕上がりだ。
最近、世界中の自動車メーカーはこぞってSUV(多目的スポーツ車)の新型車を発表している。日本の自動車メーカーも同じだ。ただし、欧米の自動車メーカーはSUVとは別に、4ドアセダンもきちんと新型を開発している。それが車づくりの基本だということを知っているからだ。
セダンは車体の前部にエンジンなどの動力部があり、中央に快適な客室があり、後部に独立した荷室がある。それぞれが箱の中に収まっているから3ボックスセダンとも呼ばれる。その形状を基本にして、屋根を長くしたり、荷室を客室と一体にした進化系のセダンが、欧米各社から発売されている。
ところが日本では「売れない車をなぜつくるのか」という意見が、自動車メーカーの中でまかり通ってしまう傾向がある。その証拠が現在の国産車の車種構成だ。4ドアセダンは数えるほどしか販売されていない。そんな状況下で国産高級車ブランドの雄、レクサスが4ドアセダンの最新型を発売した。
熟成した日本代表セダン
「IS」はレクサスの中型セダンとして、1999年に誕生、20年以上にわたり、世界中の市場で販売されている。現行型は2013年に一新され、今回は小改良を施したマイナーチェンジだという。
基本骨格のホイールベースは前モデルと同じ寸法だが、車体の全長や全幅は大型化されている。さらにヘッドライトの高さや、後ろの窓からトランク、車体後部にかけての形状も異なっている。本来なら全面改良に近い手の加え方なのだが、レクサスの心意気として、たやすく“新型”とはいわない。あくまでも“熟成”なのである。
過酷な試験路で走り込み安全性能、走行性能を高めた
多くの販売台数が期待できない4ドアセダンを全面改良したのは、車づくりの基本がセダンにあることを経営陣が熟知しているからだ。レクサスの母体であるトヨタの豊田章男社長は、自らハンドルを握ってサーキットレースや山岳ラリーに出場する異色の経営者である。レースでは車の性能を極限まで引き出し、人車一体の境地を目指す。だからこそ、車づくりの基本であるセダンを重視するのだろう。
2019年には車両開発用の試験路を愛知県豊田市に新設した。一周5.3kmの試験路は、ドイツの世界一過酷なレースサーキット「ニュルブルクリンク」に似た高次元のコースに仕上げられている。新型ISはここで走り込み、単に速く走ることだけでなく、安全性能を高める最新技術を磨き上げ、車体、足回りを大幅に改良した。
予想を裏切り、販売は順調で、SUVから乗り替える人たちも多いそうだ。国産車に高級中型セダンがないので輸入車に乗っていた人たちも、ISの存在を知り、国産車に戻ってきている。大排気量ガソリンエンジン、ハイブリッド、2Lターボ、4輪駆動、後輪駆動と、目的に応じて選べる車種展開も魅力だ。
レクサス/IS350 Fスポーツ
全長×全幅×全高:4710×1840×1435mm
ホイールベース:280mm
車両重量:166kg
エンジン:V型6気筒DOHC 3.5L
最高出力:318PS/6600rpm
最大トルク:38.7㎏-m/4800rpm
駆動方式:後輪駆動
燃料消費率:10.km/L(WLTCモード)
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン 66L
ミッション形式:電子制御8速自動
サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン式 後:マルチリンク式
ブレーキ形式:前・後:ベンチレーテッドディスク
乗車定員:5名
車両価格:650万円
問い合わせ先:レクサスインフォメーションデスク 0800・500・5577
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2021年6月号より転載しました。