文・写真/角谷剛(米国在住ライター / 海外書き人クラブ )
カリフォルニア州オレンジ郡アーバイン市はロサンゼルスからフリーウェイを南へ1時間ほどドライブした場所にある。元々は広大な農園地帯であったが、市名にもなっているアーバイン社によって1960年代に開発された人工的な計画都市である。現在の人口は約25万人。数多くのハイテク企業が拠点を置くほかに、良質な住宅環境でも知られ、FBIが発表する白書では毎年のように「全米でもっとも犯罪率が低い都市」に選ばれている。
同市が刊行する季刊誌『インサイド・アーバイン』の2020-21冬号の表紙カバーに2人の日系人男性が登場した。市内で観光農場『タナカ・ファームズ』を経営する日系3世のファーマー・タナカ氏とその息子である日系4世のケニー・タナカ氏である。
タナカ・ファームズの歴史は100年以上にも及ぶ。そして、それは日系人移民の歴史を抜きには語れない。1世のタナカ・テルオ氏が広島から米国に移民してきたのは1900年代初頭のことだ。2世のジョージ・タナカ氏はカリフォルニアで生まれ育ったが、第2次大戦中は日系人強制連行から逃れるためにコロラド州へ移住した。コロラド州で結婚した妻のクリスさんを連れて、ジョージ氏がカリフォルニアに戻ってきたのは終戦後の1945年のことだった。1957年に現在の当主である3世のファーマー・タナカ氏が誕生。家族はオレンジ郡の別の市で農場を営み続けるなか、1987年に4世のケニー・タナカ氏が誕生。1998年には現在のアーバイン市に移ってきた。ケニー氏はアーバイン市で教師をしていたクリスティンさんと結婚し、2人の間には5世となるランドン、ケイリーの2人の子供がいる。
カリフォルニア州は日系人移民が多い土地ではあるが、それでも日系人としてのアイデンティティーを保ったまま5世代が続くのは珍しい。現在のタナカ・ファームズは約30エーカーの広さをもつ農場だ。隣接する18ホールのゴルフ場が約70エーカーだから、ほぼその広さが想像つくだろう。
全米でも地価が高いことが知られるアーバイン市において都市型農園として生き残っていくために、タナカ・ファームズでは早くから無農薬の有機農法に活路を見出した。ここの直売所で販売されているすべての農作物はオーガニック製品である。
タナカ・ファームズでは農業以外にも様々な試みを行ってきた。中でもワゴン車に乗って農場を回り、畑で季節の野菜や果物を摘むことができる「U-Pick」ツアーは家族連れに人気が高い。このツアーでは春はイチゴ、夏はスイカ、秋はカボチャをメインとした季節ごとの野菜・果物の収穫体験ができるうえ、カボチャを大砲で飛ばすなどのアトラクションもある。
10月のハロウィンの時期になると、トウモロコシ畑に作った迷路、ヤギや羊に触れることができる小動物園、移動遊園地などを敷地内に集めた「パンプキン・パッチ」という季節イベントが催され、12月に入るとクリスマスツリーの販売所も設けられる。地元にある多くの小学校から遠足も受け入れているので、アーバイン市内で育った子供たちは一度はタナカ・ファームズを訪れたことがあるのではないだろうか。
こうして観光農園としてアーバイン市に確固たる存在を築いたタナカ・ファームズだが、そのルーツである日本との結びつきも依然として強い。2011年の東北大震災の際には、被害があった地域に義援金を送るためのイベントを開催した。イベント名の「希望」がプリントされたTシャツをこの頃アーバイン市内でよく見かけたものだ。
2020年のクリスマス時期には新型コロナウイルスの影響で様々なイベントが中止になったなか、タナカ・ファームズでは車に乗ったまま農場を巡るドライブ・スルー形式のイルミネーション・ツアーを開催した。「HIKARI」(光)と名付けられたイベントでは、トラクターや給水タワーなどがまばゆい電飾で飾られ、連日多くの車が訪れた。
「タナカ・ファームズ」(Tanaka Farms)
住所:5380 3/4 UNIVERSITY DR., IRVINE, CA 92612
電話:+1-949-653-2100
公式ホームページ:https://www.tanakafarms.com/
文・写真/角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。