「人生100年時代」というフレーズをあちらこちらで目にするようになりました。2021年4月からは、70歳定年を盛り込んだ「改正高齢者雇用安定法」も施行されることから、改めて長寿化を強く意識し、“長生き”に備えたライフプランを立てている人も多いでしょう。しかし、誰もが元気なまま長生きできるわけではありません。年をとるにつれ、身体機能も認知機能も低下し、人生の最後の10年はどうしても医療や介護が必要になるというのが現状です。 その状況を受け止め「加齢や病気に伴い心身の機能が低下しても、最後の瞬間まで安心・納得して生き切れるコミュニティをつくる」ことをめざし、24時間対応の在宅総合診療を手がけているのが佐々木淳医師。在宅医療のリアルを知る佐々木医師に、私たちは今から何に気をつけたらいいのか、在宅医療に必要なことについて4回に分けてお話をお聞きします。4回目は「新型コロナウイルスの感染の不安がある中での過ごし方」について伺いました。

「三密」を避け、閉じこもらないこと!

コロナ禍だから家に閉じこもっていよう、外出するのは買い物のときだけという人も多いのではないでしょうか? けれど、佐々木先生は三密を避けながら外に出るようにしてほしいと言います。

「感染のリスクを避ければ、外に出ても人と会っても大丈夫。公園などのオープンスペースは感染のリスクはほとんどゼロ。少人数で散歩したり、風通しのいいカフェでお茶をしたりなど、三密を避ければ問題ないので、どんどん外に出てほしいです」

まずは身体を動かすこと、さらには誰かと会って話すこと。外出を控え、閉じこもることで、体力や食欲が低下するばかりか、認知症やうつのリスクが高まることもわかってきています。そしてそれに気がついていないということもあります。

「たとえば交通事故で亡くなっている高齢者は、年間2000人くらいです。お風呂で溺死する高齢者は、年間5000人ほど。交通事故に遭うのが怖いから外に出ない、溺れるのが怖いからお風呂に入らない、という人はいませんよね。新型コロナウイルス感染症で亡くなっている人は1年で3500人です。もちろん、感染対策が行われた上での数字なので、一概に比較はできませんが、感染のリスクよりも、感染のリスクを恐れて外出しないリスクの方が大きいかもしれません。対策をして外に出た方がいいと思います」

人とのつながりは、心身ともにいい影響を及ぼします。もちろん、外に出る以外の方法でも、人とのつながりを感じることはできます。

「遠く離れた家族や友人とテレビ電話するのもいいですよ。顔を見て話すのはとてもいい影響があります。先に話したネットゲームもいいですしね」

デジタルデバイスを使いこなすというハードルはありますが、コロナ禍をきっかけに、挑戦してみるのもいい刺激になりそうです。

マスク・手洗い・手指消毒をして、うつさない努力を

三密を避けるほかに、人のいる場所ではマスクをする、手洗いや手指消毒を徹底することで、「他の人にうつす」ことが防げるといいます。

「どんなに努力しても感染から100%身を守ることはできません。しかし、ちょっと努力をすれば、他の人に感染させることは防げます。みんながうつさないように行動すれば、感染は拡大しません。この状況が何年続くかわからないなかで、社会的な活動もコミュニティの動きも停滞しがちです。なんとか人との交流が活性化できるように、考えていかなければと思っています」

「うつらないように」ではなく「うつさないように」努力する。コロナ禍でもできることはたくさんあります。こんなときだからこそ、家族、友人、さらにはコミュニティ全体の繋がりを深めていきたいものです。

4回にわたり、医療法人社団悠翔会の理事長・診療部長である佐々木淳先生に、在宅医療の現在について伺いました。「生涯、人の世話にはなりたくない」という意思を持ち、健康で仕事をバリバリとこなしている50~60代の方にとっては、他人事と思われるかもしれません。しかし、齢を重ねるにつれ、身体機能や認知機能の低下は避けられず、そう遠くない将来、医療や介護が必要になるということもありえます。ご家族の介護をすることもあるでしょう。一人ひとりが高齢者の在宅医療の実情を知り、向き合っていくことが、これからの時代は大事だと考えます。

お話を伺ったのは……


佐々木淳先生
医療法人社団悠翔会理事長・診療部長
1998年に筑波大学医学専門学群卒表後、三井記念病院・消化器内科、東京大学医学部付属消化器内科を経て、2006年に在宅療養支援診療所「MRCビルクリニック」を開設。2008年に法人化(医療法人社団悠翔会)、理事長に就任。現在都内近県に合わせて15拠点を構え、在宅医療に尽力している。

佐々木淳先生のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 撮影/ 近藤紗菜   

 

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