文・写真/角谷剛(米国在住ライター / 海外書き人クラブ )
カリフォルニア州には“Mission”と呼ばれるスペインのカトリック伝道所が21か所あり、カリフォルニア・ミッションと総称されている。各伝道所はサンディエゴからサンフランシスコ周辺まで南北に約50kmごとに散らばり、“El Camino Real”(王の道)と呼ばれる道路で繋がれている。なぜ約50kmなのかと言えば、それが1日に馬で移動できるギリギリの距離だと考えられたからだ。
ミッション・サンフアン・カピストラーノは、そうした伝道所の1つである。1776年に開設された当時の建築物をほぼそのままの外観で見ることができるほか、周辺の町も商業施設の規制がなされていて、歴史的な雰囲気が保たれている。カリフォルニアでもっとも古く、人気の高い観光地のひとつだが、現在でもカトリック教会としての活動も活発に行われている。小中学校の遠足や社会見学なども広く受け入れ、地域コミュニティへ貢献している。
カリフォルニア・ミッションの歴史
カリフォルニア・ミッションの歴史はアメリカ合衆国のそれより古い。サンディエゴに最初の伝道所が設立されたのは1776年のアメリカ独立宣言より7年前のことだ。当時のカリフォルニアは北米東部13州で構成された「合衆国」には無論のこと含まれず、メキシコと併せてスペインの支配下にあった。ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴなど、カリフォルニア州にある主要都市のほとんどがスペイン語の地名を持つのはそのためである。
17世紀から18世紀までの約50年間に渡って、現在のカリフォルニア州の南から北へと広がっていくように伝道所が次々に作られていった。その目的はフランシスコ会の修道士が先住民へキリスト教の布教をするための拠点となることだった。1823年に最後の伝道所がサンフランシスコの東にあるソノマに開設され、その25年後にはゴールドラッシュが巻き起こり、人々が一攫千金を求めてこの地に押し寄せるようになる。
ミッション・サンフアン・カピストラーノの現在
ロサンゼルス国際空港から太平洋岸に沿って南へ約90 km、高速道路を使って約60分の距離にミッション・サンフアン・カピストラーノはある。1776年に建築され、カリフォルニア州全体でも7番目に古いこの伝道所は、1865年にリンカーン大統領からカトリック教会へと返還されたが、現在の運営は独立した非営利団体が行っている。カトリック教会や州及び連邦政府からの経済的支援は受けていない。
10エーカーの敷地内には広い庭園と泉水、礼拝所や神学校の跡、そして石造建築による教会の壁や鐘などの見所が点在している。施設入場料は大人14ドル(約1,480円)、学生9ドル(約950円)。すべてを丁寧に見て回ったら2~3時間はかかるだろう。
石の教会の悲劇と燕の伝説
ミッション・サンフアン・カピストラーノでもっとも目を引く建造物は、入り口から入ってすぐ近くにある石の教会の記念モニュメントだ。1797年から1806年の9年間をかけて地元住民の手によって築かれたこの石造の教会は、完成してから僅か6年後に思いもかけない悲劇に見舞われることになる。1812年12月8日、朝の礼拝が行われていた最中に大きな地震が当地を襲ったのだ。教会建物は中央から崩壊し、内部にいた信者40人が圧死した。司祭たちはこの悲劇を忘れないために、建物を再建しないで残しておくことを選んだ。現在、我々が見ることができるのは、そのままの姿で保全された跡である。
ミッション・サンフアン・カピストラーノには毎年春先(伝説によると3月19日)になると南米から北米へと旅する燕が飛来することでも知られている。この石の壁を燕の群れが飛び越えていく光景は地元の風物詩にもなっている。
歴史的な街並みと鉄道駅
ミッション・サンフアン・カピストラーノ近辺の一帯は歴史的市街区域に指定されていて、古い雰囲気の町並みが保存されている。近くには鉄道の駅もあり、その駅舎も歴史と文化を感じることができる建物だ。周辺には2階建て以上の建物はなく、ファストフード店も大規模店舗もない。そうしたすべての地域の努力が、他のカリフォルニアの有名観光地とは一味違った旅の楽しみを、当地を訪れる年間約30万人の観光客に与えてくれている。
「ミッション・サンフアン・カピストラーノ」(Mission San Juan Capistrano)
住所:26801 Ortega Hwy.
San Juan Capistrano, CA 92675
電話:+1-(949) 234-1300
公式ホームページ: https://www.missionsjc.com/
文・写真/角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。