文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】平日に予定を入れない日を作る。
スキマ時間を埋めすぎる弊害
なぜ週末だというのに、仕事のことばかり考えてしまうのでしょうか。「忙しい」というのは、実は本当の理由ではありません。
実際、「仕事のことで頭がいっぱい」だからと言って、何かアイデアが閃いたり、進展があったりするわけではありません。「頭がいっぱい」というのは、言い換えれば「余裕をなくしている」ということです。
ではどうするか。答えは意外と簡単です。
予定を入れすぎないようにする。これだけで、随分、あなたの日常は改善されます。もっと踏み込むなら、このやり方です。
平日に週1日、有無を言わせずに何も予定を入れない日を作るのです。非現実的なプランでしょうか?
まあそう言わずに、「なぜか」という理由から聞いてください。
これは「できるビジネスパーソン」が陥りやすい罠なのですが、忙しければ忙しいほど、「もっと効率良く、もっとたくさんのことをこなしたい」と考えます。「できるビジネスパーソン」は実際、それができてしまう。
そのためには、無駄な時間やスキマ時間を徹底的に洗い出さなければなりません。できたスキマ時間に別の仕事を入れます。仕事にも人間関係にも優先順位をつけ、効率良く片付けていく必要にも迫られるでしょう。必然的に、家のドアを開けた瞬間から、あなたは「早足」のはず。
私自身、常に「効率」を考えてしまう人間です。効率を優先するあまり、空いた時間を埋めたくなる誘惑に、いつも駆られています。
ところが不思議なことに、スキマ時間をすべて埋めてしまうと、日々刻々と変化する状況に対応できなくなってしまうのです。それでも対応せざるを得ない事態に、玉突きでスケジュールが後ろ倒しになり、効率どころではなくなります。
結局、大事なことすら完遂できずに、1日のスケジュールは滅茶苦茶。ストレスもマックス、つまり自律神経が乱れているということです。
そういう経験、ありませんか?
私は何度もあります。その結果学んだことは、「余裕をなくすと、かえって効率が悪い」ということです。
「戦略日=予備日」を設ける余裕
私はこうした問題を解消すべく、平日に1日、何も予定を入れない日を作りました。これを私は「戦略日」と呼んでいます。
もちろん、何もせずにボーッとしている、ということではありません。
あくまで、「あらかじめすることを決めない」ということです。言い換えれば「予備日」ですね。
「戦略日=予備日」を設けることは、次の2つのメリットがあります。
1.毎日追われている業務とは、別の仕事に着手できる
私の場合、実験を行った後に、論文をまとめたり整理したりするには、ある程度のまとまった時間が必要です。この際、「戦略日=予備日」が効力を発揮するのです。
ビジネスパーソンならば、日々の業務とは別に、社内の有志が集まるプロジェクトに参加する、あるいはあたためていた新規プロジェクトの企画書を作成する、新商品を開発するための市場調査に着手するなど、いろいろなことが考えられるでしょう。どれも「えいやっ」とできないことばかりで、しかもトータルの時間が読めません。そもそもトータル時間がわからなければ、予定に組み込むことなどできないのです。無理にスケジューリングすれば、さまざまなところにしわ寄せがいくでしょう。
しかし、こうしたことにチャレンジしなければ、自分自身の成長もありません。仕事の新しい可能性も見出せない。だからこその「戦略日」なのです。
2.その週、遅れている仕事をリカバリーする
仕事が立て込んでくると、何らかのアクシデントで、予定していた仕事がこなせなくなる、ということは珍しいことではありません。そんな不測の事態の時こそ、「戦略日」を「予備日」と考え、この1日を使って取り戻すのです。
ただし、「予備日に仕事をすればいいや」と思わないこと。予備日に仕事の遅れを取り戻すことが常態化してしまえば、それは「戦略日」でも「予備日」でもなくなってしまいます。
丸1日が無理ならば、半日だけでも構いません。「戦略日=予備日」を設けてみてください。先に1時間を45分と15分に分けて使うやり方の効果を説明しましたが、同様のことです。
いずれも、人生の「余裕」に繋がります。
余裕が出てくると、自然と自律神経が整ってきます。
「仕事のことで頭がいっぱい」とは、いわば自律神経の乱れた余裕のない状態ですから、自律神経が整えば、おのずと「仕事以外のことを考える」余裕も出てくるのです。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。