数ある猫漫画の中で、しぐさや佇まいなど「とにかく猫の描写がリアル」と絶賛される『俺、つしま』の3巻の刊行を期して、作者おぷうのきょうだい(妹)の独占インタビューをお届けします。
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3巻でコロナ禍を描いた理由
――3巻が発行されて1か月あまりが経ちました。売れ行きも好調で、1~3巻の累計が40万部を突破しました。1、2巻に続き、3巻も読者の方々から支持してもらえた理由は何だと思いますか?
おぷうのきょうだい・妹(以下「妹」):2巻を出してから1年半くらい開いてしまったんですが、読者の皆さんが待っていてくれて、温かい気持ちで読んでくださったからだと。これしかないのではないかなと思います。小学館の皆さんもテレビCMや様々な販促グッズを作ってくれて、書店やネット書店もそれぞれでPRしてくれました。
――書店さんはコロナ禍で苦労されている中で、つーさんのスペースをとってくださいました。
妹:いろいろな書店のSNSで『俺、つしま』シリーズが積まれている光景やフェアの様子を見ると、ワクワクしてうれしくなりました。心から感謝しています。
――そのコロナですが、3巻ではコロナ禍についても描きましたね。その理由を教えてください。
妹:あまりTwitterの更新をしてなかったですから、一冊の本に仕上げるために70ページ弱の描き下ろしを入れることになりました。さて何を入れようかと。本当は、時事ネタは描かないほうがいいと思っていたんですよね。
――後から読んだときに時代がハッキリしてしまって、読む時期によっては現在の話として受け取れなくなってしまうリスクもありますからね。
妹:末長く読んでもらうことができれば、それが一番うれしいです。だからコロナについて描くか迷いました。でも描かずにはいられなかったんです。私たち自身が不安でしたし、Twitterを見ても友人とメールしても、誰もが不安を抱えていることが伝わってきました。それで私、つまり「おじいちゃん」もすごく不安ですよ、みんな同じですよということを伝えたくなったんです。後から読み返したときに、「ああ、あの頃はこんな風だったな」と思ってもらえるのも良いのかもしれないなと思いました。
――コロナ禍によって色々な変化がありましたよね。会社員をしている私の場合はリモートワークもそうですし、おぷうのきょうだいのお二人とも全く会えていません。この対談もリモートで行なっているほどで。
妹:たまにこれは悪い夢なんじゃないかと思うことがあります。夢かどうか確かめるために口の中を噛んだりして痛いから「ああ現実なんだな」と正気に戻る感じです。心がザワザワする日々が早く過ぎ去ってほしいです。その願いも3巻に込めました。
――おぷうのきょうだいの飼い猫であり、漫画のキャラクターにもなっているつーさんやちゃーちゃん、オサムさんに変化はありましたか?
妹:何か様子が違うな?とは思っていたようです。たまに買い物に行ってたくさん持ち帰って、それを消毒してバタバタとしまっていますから「何やってんの?」みたいな目で見られています。猫たちにアルコールを吸わせないように別の部屋でガサゴソしているので。でも、何かヘンだなと思いつつも、猫たちはいつもと同じように過ごしてくれているように見えます。オサムさんもずいぶんと慣れたし、みんなよく甘えてよく寝ています。本当に可愛いです。居てくれることが、どんなに慰めになっているかわかりません。
4章構成という新しいスタイルで
――今回の3巻は、4章構成でした。
妹:1、2巻のときもそうだったんですが、行き当たりばったりでTwitterの更新をしていましたから、書籍にする際に話と話をつなげるのが一番面倒で。まるでパズルを合わせるように苦労します。今回はコロナ禍のことにも触れたかったので、章でくぎるという新しいスタイルを試してみました。
――各章の扉絵がとてもかわいらしかったです。あれはつーさんが描いた絵ということですよね?
妹:つーちゃんが絵を描いている絵を表紙にしたので、各章の扉もつーちゃんに……まあ実際には兄が描いたわけですが、手癖があるせいかどうしてもくだいた絵が描けないんらしいですよ。すごく苦労していました。じゃあ私がと、私も描いてみたのですが、下手なんですけどどうしても大人の絵になってしまって。結局、兄が利き腕ではない左手で、なおかつ目をつぶってやっと描けたみたいです(笑)。
――1章はつーさんたちの日常が、2章は地域猫集団「やさぐれ会」が、3章はコロナ禍、そして最終章の4章では猫たちに愛されながら伐採の危機にある「カシの木さん」や猫の居場所について描かれました。4章は感動的で、読み終わって前向きになれたというか、希望が持てました。
妹:野良猫や地域猫の居場所が年々減っていくことについては心を痛めています。読者の方の感想の中には「近所の猫がいた空き地にも建物ができてしまったので、おじいちゃんの気持ちがよくわかります」といったものがいくつかありました。仕方のないことではあるんですが、慣れ親しんだ街並みが変わっていくのは寂しいし、猫たちにとっても不安だと思います。一見ただの空き地でも、生き物にとっては住処であり、憩いの場所でもあるんですよね。それを4章で描きました。
――1巻でその旅立ちを描いたズンちゃんも、4章にはたくさん登場しましたね。
妹:実際にあった出来事を元に組み立てたので、色々と思い返してしまって、ズンちゃんにとても会いたくなりました。今うちはでっかい男の子ばかりですから、ちんまりとしたおしゃまなズンちゃんがとても恋しいです。でも今回このエピソードを作ったことで「これでよかったんだな」とあらためて思うことができました。
――ズンちゃんは長生きしたし、幸せだったと思います。
妹:若くして亡くした猫もいますし、色々な別れを経験しました。私のペットロスは一生続きますが、それでも納得して受け入れてあげたいと近年になってやっと思えるようになりましたね。
――1巻は「猫エッセイ」という雰囲気も強かったのですが、2巻はそれだけではない、いわゆる「漫画」として描かれているように思いました。3巻はどうですか?
妹:『俺、つしま』は、猫のつーさんが主人公のギャグ漫画だと思っています。うちで飼っている猫については実像の通りですし実話も多いのですが、フェイクを入れているというか、あくまで「漫画」として描いています。作画をしている兄が出てこないのもフェイクといえばフェイクです。そうですね、例えば「タナカ姉妹」にしてもご近所にいる方という設定だけはベースにさせてもらっていますが、あくまで漫画のキャラクターであり、モデルになった方々と、漫画の中のタナカ姉妹は別人格です。実物はもっとずっとエレガントで良識ある人たちで、乱暴な言葉を使うようなこともありません。
――登場人物も登場する猫も、みんな魅力的です。
妹:人間のキャラクターは、色々な知り合いのミックスだったり全く架空のキャラクターだったりします。猫のエピソードは基本的に実話がベースですが、あとはあくまで漫画として読んでいただけたらと思います。
――この後はどんな展開になるんですか?
妹:あまり深く考えていないのですが、ネタ帳にはびっしり猫の日常ネタがあるし、日々面白いことや楽しいことも起こっています。『サライ』の『月刊つしま』の連載も続いていますし、Twitterの更新もこれからもやっていきたいと思っています。
――読者の皆さんも4巻を期待していると思いますよ!最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
妹:いつも温かい言葉をたくさんいただいて、どんなに励みになっているかわかりません。早く、コロナ禍が遠い昔のように思えますようにと祈っています。
――本日は、ありがとうございました。