熊本県荒尾市。人口約5万人の小都市に〈楽しい猫助け〉をコンセプトにしたジュエリーショップ「Catton(キャットン)」がある。
「何の責任もない小さな猫が全国で殺処分されているという現実に心を痛めていました」
そう語るのは、同市のオーダーメイドジュエリー専門店「ゴールデンリバー」の梅崎尚子さんだ。
梅崎さんはもともと、保護猫カフェを運営する友人の活動を応援するなど、保護猫活動に関わってきた。平成28年に発生した熊本地震では、多くの犬や猫も被災。保護団体や保護猫カフェなどがそうした犬や猫の保護に乗り出し、苦労する姿を間近で見たという。
「皆さんが殺処分ゼロを目指して活動しているのを見て、私たちも会社として何か〈猫助け〉の力になれることがあればと、ずっと考えていました」
「猫助け」とは、全国展開する保護猫団体「ネコリパブリック」が提唱する、飼い主に何かあった場合でも猫たちが終生安心して暮らせるようにする制度のこと。飼い主を失って保健所に持ち込まれて殺処分される猫、家から出されて急に外での生活を余儀なくされる猫たちを減らすために、寄付などで支援をしてきた飼い主の猫を引き取り、新しい飼い主を見つけるという仕組みだ。
猫を引き取り、新しい飼い主が見つかるまでの間世話をし、時には医療を受けさせるには、資金が必要だ。
梅崎さんたちの会社がある荒尾市には動物保護団体がなく、個人がボランティアとして保護活動を行なっている。野良猫などの避妊・去勢手術をし、元の場所に戻すTNR活動や、その印として耳に切れ込みなどを入れた「サクラ猫」たちを地域猫として見守っていくこともあまり認知されていないのが現状だという。
野良猫たちの現状をもっと知ってもらいたい。
熊本県内でも保護される猫は後を絶たず、特に荒尾市周辺からの保護猫は多い。そこで梅崎さんたちは、会社の社会貢献の一環として、ジュエリーの収益の一部を猫の保護活動に充てるために、平成30年に猫ジュエリーを専門とするブランド「Catton」を立ち上げた。
「猫を愛する家族としていつもそばに感じられるジュエリー、猫を飼うことができないけれど猫が大好きな人に身に着けてもらいたいジュエリー、1匹でも多くの保護猫を救いたいと願っている方へのジュエリーなど、〈猫への愛〉をテーマにしたジュエリーを展開しています。『サクラ猫』や、猫免疫不全ウィルス(FIV)感染症の〈リンゴ猫〉についても知ってもらいたいというメッセージを込めたジュエリーもあります」
Cattonでは、ジュエリー工場に「 保護猫譲渡ジョートフルステーション」を併設。熊本で毎月、合同譲渡会を主催している「ジョートフル熊本プロジェクト」が保護した猫たちを預かるシェルターで、飼い主が見つかるまでの間、保護猫たちが安心して過ごせる施設だ。「ジョートフル」とは、譲渡とハートフルを掛けたものだ。
「ジュエリーの工場に〈ジョートフルステーション〉が併設されているのは日本初。でも、シェルターとしての役目であれば、どんな小さな事業所でも設置できます。このような会社が増え、家族のいない保護猫がいなくなることが夢のひとつです」
「お店を訪れた猫好きのお客様が、いつでも保護猫たちとふれあえる環境を整えています。そして、保護猫たちが新しい家族と出会うことができるようにと、猫のお世話と情報発信、譲渡会を開催するなどの活動を行なっています」
『俺、つしま』著者の提案で実現したチャリティーコラボ
ところが、今年の初旬、日本のみならず世界中がコロナ禍に陥った。
「新型コロナウイルスの影響により、ジュエリーの販売イベントが軒並み中止となってしまいました。ジュエリーの売上で保護猫飼育や医療費、譲渡活動を行っている私たちも売上が減少してしまい、猫の保護活動にも支障が出ていました」
そんな中、Cattonの活動に注目し、なんとか力になりたいと申し出たのが、Twitter発の大ヒット猫漫画『俺、つしま』の著者おぷうのきょうだいだった。
「私はアクセサリーが好きで、自分用のつーさんたちのネックレスを作ってくれるところをずっと探していたんです。そんなときネットで、Cattonがコロナ禍で苦境にあることを知りました。応援したいなという気持ちで、ペットそっくりのオリジナルネックレスを作ってくれる〈ウチノコジュエリー〉をオーダーしたんですが、オプションで背中を作ってくれたりと細かい相談にも丁寧に応えてくれて、仕上がりにも大満足でした。うれしくてTwitterにネックレスの写真を載せたところ反響があり、〈商品化してほしい〉という声もありました。シルバー925を使ったオーダージュエリーですし、商品化なんて考えていなかったのですが、ひょっとしたらこれでCattonを応援できるかもしれないなと……。小学館に相談すると快諾してくれてトントン拍子にグッズ化が決まり、チャリティーとして収益の全てをCattonが保護する猫たちのために使ってもらえることになりました」(おぷうのきょうだい/妹)
このコラボは、『俺、つしま』ファンを通じて多くの猫好きに知られることとなった。SNSなどでも、『俺、つしま』コラボジュエリーを入手した人たちが画像をアップしている。また、このコラボがきっかけでCattonを知り、自分の愛猫モチーフのジュエリーを作ってもらったという人もいる(筆者もそのひとり)。
熊本を拠点とするCattonだが、今後は福岡にもシェルターとしてのCatton店舗開店を目指していると梅崎さんは語る。
「福岡にも猫の保護団体さんがいらっしゃいますから、熊本と同じように協力していただきながら譲渡活動、譲渡会の開催を続け、将来的には保護猫がいなくなることが夢ですね」
今後はジュエリーに限らず、猫との暮らしを提案できるブランドにすることを目標にしているという。
「健康で長生きできるフードの提供、地元地域で作られる食品とのコラボなども実現したいです」
Cattonの取り組みがより一層多くの人々に認知され、追随する会社が増えていくことに期待したい。
Catton Catton
ジュエリー工場&ショップ
営業時間:11時~18時
定休日:火曜日
電話:0968-57-9285
住所:熊本県荒尾市万田725-1
アクセス:JR荒尾駅から徒歩約10分
ホームページ:https://catton.jp/
『俺、つしま』特設サイト:https://www.shogakukan.co.jp/pr/tsushimacat/
文/一乗谷かおり