3密に留意しつつ、古今亭志ん輔師匠『幾代餅』&結城アンナさんとのトークショーで盛会
渋谷は100年に一度という大規模な再開発の真っ只中にある。そんな、新しい渋谷を象徴する商業施設のひとつが『東急プラザ渋谷』だ。「プラザ」には「広場」という意味があり、ここを大人が集う渋谷にしたいとの思いがある。『東急プラザ渋谷』に入る店は、どの店も上質で快適な大人の生活を提案している。
先日、『東急プラザ渋谷』内の「Pepper PARLOR」(ペッパー パーラー)を会場に、『渋の会』(しぶのえ)というイベントが開催された。出版社の垣根を越え、『サライ』と『素敵なあの人』(宝島社)の2誌が共催する、両誌の読者向けのスペシャルトークショーである。『渋の会』とは、「茶会」(ちゃのえ)のように、大切な客人をもてなしたいという思いから名付けられた。
トークショーのゲストは、本誌が主催する落語会『人形町らくだ亭』(休止中)でもおなじみの、落語家・古今亭志ん輔さんと、タレントとして活躍する結城アンナさんだ。当日のテーマは「『人生100年時代』を自分らしく歩むためヒント」である。サライ世代のふたりは、どのような人生の愉しみ方をしているのかを存分に語っていただいた。
トークショーの前に、古今亭志ん輔さんが落語を披露。演目は、志ん生、志ん朝、志ん輔と語り継がれてきた、古今亭一門にとって十八番(おはこ)ともいえる『幾代餅』(いくよもち)である。
堅物の奉公人、清蔵が吉原の幾代太夫に一目惚れしてしまう。堅物の恋煩いであれば、食事ものどを通らない。どうなることかと思えば、意外な展開でふたりは結ばれることになる。いつ聴いても、気持ちがほっこりとしてくる、ハッピーエンドの人情噺だ。
それでは、古今亭志ん輔さんと結城アンナさんのトークショーの一部を再現してみよう。
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――おふたりは、渋谷の街にどのような印象をお持ちでしょうか。
志ん輔「渋谷は今でこそ若者の街という印象ですが、もともとは原宿も六本木も渋谷も大人が集う街だったんですよ。それがいつの間にか、若者たちに乗っ取られてしまった。そのあたり、〝遊び人〟のアンナさん(笑)、いかがでしょうか」
アンナ「私、遊び人じゃないですよー。主人(岩城滉一さん)は遊び人かもしれないですが(笑)。学生のころは渋谷を経由して通学していましたけど、渋谷で遊んだ記憶はあまりないですね。ところが、今回、新しくなった渋谷の『東急プラザ』に来てみると、私たちの年代に合った欲しいものがたくさん置いてあります。私、お気に入りのメーカーさんが何社かあるのですが、全部入っていました」
志ん輔「それは素晴らしい」
アンナ「あと、座って休めるところがたくさんあって、きれいなお手洗いがあるのもいい。だから、またここに来ようと思います。大事ですよね」
志ん輔「駅の向こう側はこどもの街になってしまったけど、ここは大人がゆっくり過ごせるところになっていますね」
――大人の街に変わりつつある渋谷におふたりをお招きして、本日のテーマである「人生100年時代」にいつまでも若々しく健康でいるため秘訣をお聞きしたいと思います。
アンナ「健康でいるためには、好きなことをすればいいんです。家族とおいしいものを食べて、楽しい時間を過ごし、ゆっくりお風呂に入り、よく眠ること。あとなんだっけ?(笑)」
志ん輔「さらにもっと、好きなことを探す」
アンナ「そうそう、それ! 好奇心を持ち続けてなんでもいいから趣味を持つこと。朝起きたら今日はあれしよう、これしようと思えたら、毎日が楽しいじゃないですか。それが私の健康法です。師匠はいかがですか」
志ん輔「私、落語家なのに声が出にくくなることがたまにあるんですよ。先生に診てもらったら『腹筋とかやってますか?』って。どうもお腹から声を出さずにいたら声帯だけに負担がかかっていたらしく、以来、腹筋運動をするようになり、声も復調しました。腹筋がついてきたらこんどは背筋を鍛えようとか、3か月続けるとクセになるとよく言われます。私は商売上仕方なくやっていますが、大変なのでみなさんは特にやんなくていいですよ」(笑)
アンナ「私はお散歩。毎日1時間くらい歩きます。 友人の話ですが、飼っていた犬が死んで日課の散歩をやめたら、ひと月で2キロも太ったと言っていました。 歩くことは健康の基本です」
――毎日の食事で、気をつけていることは何ですか。
志ん輔「野菜を意識して摂るようにしています。野菜-野菜-肉-魚-野菜という感じで。でも、よく行く漢方薬局の先生が『食べなくても死にませんよ』というんです。いや、死にますよ(笑)。先生の本意は、たまに胃を空っぽにすると体にいいですよ、ということなんです。それから食事の感覚を8時間程度空けてみると、これが調子いいんです。太らなくなりました。そういえば、江戸の人たちは1日2食でしたもんね」
アンナ「私もそれやってますよ。一日の最後の食事は夕方の4時頃です。そして寝るのは夜8時過ぎ。すると朝食まで胃腸がゆっくり休まります。朝食が8時なので毎日、16時間の短い断食をしている感覚です。すぐに慣れました。体がすごく軽くなりましたね」
志ん輔「まあ、人それぞれですので無理しないことです。8時間と決めたから毎回それを厳密に守るのではなくて、ちょっといい加減な気持ちを持つことが肝心でしょう」
アンナ「そうです。どんな健康法でも自分に優しく、自分を愛する気持ちで続ければ、そのうち楽しくなってきますよね」
――これからの人生を、豊かに楽しく過ごすためにおふたりは何をやっていますか。
志ん輔「あのう、そんなものはないですよ(笑)。ただ、私の場合は日々の暮らしに飽きないことにつきます。コロナで出かけるわけにもいかないから、このごろ料理を作るようになりました。これが楽しいんですよ。なんでこんな楽しいことを、今までやらなかったのだろうかと思うくらい。最近は、洗濯にまで手を出してしまいました」(笑)
アンナ「料理楽しいですよね。ただ私の場合は、わー、こんなものが出ているんだ、と食材を買ってきて、作ってそれで満足。味なんか関係ない。旬の新鮮な材料使っているんだから、体にいいに決まっています」
志ん輔「私など、料理することで満足して、結局、食べなかったりします」(笑)
――お二人の健康法は、無理をしないで楽しく過ごすことにつきるようです。
本日はどうもありがとうございました。最後に、これから大人の街、渋谷に期待することをお聞かせください。
志ん輔「あんな大人になりたいと、若い人に思わせてくれるような、そんな人々が集う街になるといいですね。私、老舗のジャズ喫茶で大人の作法を学んだりしていました。まあ落語界では、あんな噺家になりたいとかはなかったのですが」(笑)
アンナ「この歳になって感じるようになったことですが、社会全体に優しさが足りていないような気がします。人間は思ったよりデリケートなので、優しさが必要なんです。渋谷も、もっと人に優しい街になるといいなぁ」
構成/宇野正樹 撮影/矢口和也