「国家的道徳というものは、個人的道徳に比べると段の低いものに見える」(夏目漱石)【漱石と明治人のことば43】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「もう一つ御注意までに申し上げておきたいのは、国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見えることです」
--夏目漱石

夏目漱石の講演録『私の個人主義』より。漱石は、このあとさらに、こんなふうに語っている。

「元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても、徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる、誤魔化しをやる、ペテンに掛ける、目茶苦茶なものであります」

「だから国家を標準とする以上、国家を一団と見る以上、よほど低級な道徳に甘んじて平気でいなければならないのに、個人主義の基礎から考えると、それが大変高くなってくるのですから考えなければなりません。だから国家の平穏な時には、徳義心の高い個人主義にやはり重きを置く方が、私にはどうしても当然のように思われます」

世界を巻き込んだ20世紀の大きな戦争を経て、21世紀は、詐欺や誤魔化し、ペテンというようなことまではなくなってきているのではと思いつつ、現実の昨今の国家間の外交問題に目を向けると、そうも安心できない。

自国の利益追求やワガママを通すために、ともすると相手をふみにじっても暴走するケースは今も見られる。

政治家たちが、自国の国民のことがまず優先、国益をそこなうわけにはいかない、というのもわからないではないが、それがために周囲にどんな混乱が起きようとお構いなしというのは、やはりいただけない。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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