南アルプスの雄大な自然に囲まれる長野県大鹿村。山また山の秘境です。
年2回行われる大鹿歌舞伎は300年以上続く地芝居で、「大鹿村騒動記」という映画の舞台にもなりました。村には2つの温泉が湧き、そのひとつが鹿塩(かしお)温泉です。
標高750mの山峡にありながら、海水とほぼ同じ塩分濃度の強食塩泉。舐めてみると確かに塩辛いのです。塩化物泉は海の近くで湧き出ることが多いのですが、この温泉は明らかにそのメカニズムとは違うようで、いまだにあらゆる学説をもってしても解き明かすことができないそうです。
ただ、昔からこのあたりは「塩」がつく地名が多く、塩分を含む湯が湧き出るのは村を南北に貫く大断層・中央構造線の東側ということで、なにかしら地層が関連しているのでは、とも考えられています。
地元ではこの不思議な山の恵みから、塩を精製しています。「山塩」と名付けられた天然の塩はまろやかな味わいで、食材の味を引き立てます。
鹿塩温泉は鹿料理でも知られるところ。鹿肉のローストと山塩は相性抜群です。料理に舌鼓を打った後は良く温まる強食塩泉の湯でゆっくり体を癒してください(写真提供:信州・長野県観光協会)。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。