「東アジア文化都市」という国際芸術文化交流プログラムがある。日本、韓国、中国が、芸術文化の交流を、都市交流のかたちでやろうというプログラムだ。
3か国からそれぞれ都市が選ばれ、相互の都市で、美術展、演奏会が、一年間に渡って繰り広げられる。政治がギスギスしているなら文化で、国と国がギスギスしているなら都市間で、という逆転の発想だ。
本年は、奈良市と済州特別自治道と寧波市で開催されているが、その美術部門のプログラムが、奈良の人びとの度肝を抜いた。というのは、古都奈良にいちばん遠いものを世界中から集めてきたからだ。
たとえば、今や世界的美術家となった中国の蔡国強の造る船が、突如東大寺の池に出現したり、えっと思わせる現代アートが薬師寺や唐招提寺の庭に出現するのだ。
私も見に行ったのだが、最初は「えっ」と絶句するばかりだった。しかし、一週間後にまた訪れてみると、「おっ、まだいるな」「なかなか馴染んできたじゃないか」と、作品に声をかけたくなるから不思議だ。
文化も芸術も、やはり最初は驚きから、人の心を掴むものなのかもしれない。考えてみれば、飛鳥時代から奈良時代にかけて、この地の人びとは、朝鮮半島や中国から、さまざまなニュースタイルの仏像を受け入れてきた。
そう考えると、南都の古寺に現代アートがお目見えするのも悪くない。
冒頭写真の興福寺のアート展示は、南円堂と三重塔の間にある。夕方に見に行くと、鹿がたくさん集っている場所なので、アートと鹿を入れた奈良らしいベストショットを撮影することができる。
時空を超えたアートの祭典「古都祝奈良」美術部門「1300年の時空を旅する 八社寺アートプロジェクト」
展示期間:9月3日(土)~10月23日(日)
会場:東大寺、春日大社、興福寺、元興寺、大安寺、薬師寺、唐招提寺、西大寺
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文/上野誠
1960年、福岡県生まれ。奈良大学教授。国際日本文化研究センター客員教授。気鋭の万葉学者として活動は多岐にわたる。