永遠の都・ローマ。ヨーロッパきっての観光地として名高い地だが、ほとんどの観光客はホテルに滞在し、せいぜい数日見物して他の場所に移動してしまうだけだろう。じっくり腰を落ち着けて、暮らすように旅してみたい……この夏そんな憧れを叶えたのが、元・出版社勤務の中川豊さん(66歳)。ローマの中心部に部屋を借りて1か月、ゆったり気ままに見て回り、食べて回ったローマの旅の記録、今回で最終回となります。

前回の記事: 食い倒れの街ローマ!散歩途中の立ち寄り美味スポット6つ【イタリア・ローマを歩く 第7回】

テヴェレ川畔。夏は川沿いに食事処が並ぶ。

テヴェレ川畔。夏は川沿いに食事処が並ぶ。

前回の記事では、ローマの街中で出会った「お昼向き」の食事処を紹介したが、今回は「夜」の食事処を紹介しようと思う。前回も書いたように、夕食の遅い土地柄なので、「夜」といっても21時くらい以降に行きたい店ということになる。

私はといえば、あちこち散歩してナボーナ広場近くのアパートに戻り、汗をシャワーで流して、ちょっとオシャレして、夜の食事に出かける……そんな毎日だった。

観光スポットであっても客引きをせず、路地裏で淡々としたサービスと旨さを味あわせてくれる食事処がいくつもあった。実際に訪れた中から、勧められる店を地区別にご紹介しよう。

■1:『オステリア・デル・ガッロ』(ナボーナ広場地区)

私が拠点にしていたアパート近くのナボーナ広場には、広場に面して多くの店があるが、そういう店は「観光地の値段とサービス」を提供する店がほとんどだ。パフォーマーや似顔絵描きを眺めながら、裏通りへ入ることをお勧めする。

ラファエッロのフレスコ画があるサンタ・マリア・デッラ・バーチェ教会のすぐ側にあるカジュアルなオステリアが『オステリア・デル・ガッロ』である。ナボーナ広場周辺にありながら、喧騒を感じさせない貴重な店だ。

道に出したテーブルでの食事は心地よい。

道に出したテーブルでの食事は心地よい。

ブレザオーラ、蛸のトマト、焼きナス。優しい味付けにほっとする。

ブレザオーラ、蛸のトマト、焼きナス。優しい味付けにほっとする。

■2:『オルソ・オッタンタ』(ナボーナ広場地区)

同じくナボーナ広場地区から。第3回でも紹介した、カラヴァッジョが徘徊していた界隈にあるリーズナブルなホステリアの『オルソ・オッタンタ』。ボリュームがあるのでお腹を空かせて行きたい。

壁一面の写真。古くからのゲストだろうか。

壁一面の写真。古くからのゲストだろうか。

5前菜1人前がこのボリューム。

5前菜1人前がこのボリューム。

■3:『リストランテ・ピエトロ・ヴァレンティーニ』 (ナボーナ広場地区)

第3回でも散歩の最後に立ち寄ったリストランテが『リストランテ・ピエトロ・ヴァレンティーニ』 。トリュフ料理をリーズナブルにいただける。

サンタゴスティーノ教会の脇の人通りの少ない路地にある。

サンタゴスティーノ教会の脇の人通りの少ない路地にある。

■4:『アルマンド・アル・パンテオン』(パンテオン周辺地区)

パンテオン周りも多くの食事処があるが、やはり広場に面した店は避けたい。この『アルマンド・アル・パンテオン』は、内臓料理が素晴らしい。予約を取りにくのが難点だ。

 シックな空間。

シックな空間。

羊の心臓のソテー。

羊の心臓のソテー。

■5:『アイ・マルニ』(トラステヴェレ地区)

テヴェレ川対岸のトラステヴェレ地区は、週末は若者と観光客でごった返す活気あふれる魅力的な下町だ。パフォーマーも大活躍で、明け方まで賑やかだ。

そのトラステヴェレ大通りに面しているピッツァ店が『アイ・マルニ』。地元っ子に愛されている店だ。カードが使えないのでご注意を。

ズッキーニの花とサルチッチャのピッツァ。

ズッキーニの花とサルチッチャのピッツァ。

揚げ物も旨いが、パルマの生ハムも旨い。

揚げ物も旨いが、パルマの生ハムも旨い。

■6:『ケッコ エル カレッティエレ』(トラステヴェレ地区)

同じくトラステヴェレ地区で、クラシックなローマ料理を食べるなら、この『ケッコ エル カレッティエレ』だ。ショーケースから選べる魚料理も美味しい。

フェリーニも訪れたせいか、壁の写真は映画関係者が多い。

フェリーニも訪れたせいか、壁の写真は映画関係者が多い。

野菜のアンティパスト。

野菜のアンティパスト。

■7:『サンタ・バルバラ』(カンポ・デ・フィオーリ地区)

カンポ・デ・フィオーリ広場には多くの屋外レストランがあるが、味は今一つなので、やはりここでも裏通りに入ろう。

サンタ・バルバラ』は、タラのフリットが名物。開店時間はその日によるようだ。ここもカード不可なので注意。

庶民的な味のある店内。

庶民的な味のある店内。

■8:『アル・モーロ』(トレヴィの泉周辺)

トレヴィの泉の周辺は、一日中多くの観光客でごった返す場所だが、こういう場所にも地元に愛される名店は存在する。そんな店のひとつが『アル・モーロ』。ローマの伝統料理と季節の食材を堪能できる店だ。

大人の集う店。

大人の集う店。

ズッキーニの花のフリット&アーティチョーク。

ズッキーニの花のフリット&アーティチョーク。

■9:『マッツォ』(ローマ郊外)

第2回でもご紹介したが、今回のローマへの旅で一番気に入った店が、ローマ郊外にある『マッツォ』だ。マンマの味に一工夫加えて、新しい料理を創っている。

予約の際にテイスティングコースを頼んでおくと、そんな工夫の数々を少しずつ味わうことができる。中心部から離れてはいるが、十分に行く価値のある店と思う。

こんな所にと思うような場所にある。

こんな所にと思うような場所にある。

以上、ローマ中の食いしん坊も集まってくる地元の人気店を9店ご紹介したが、いかがだろうか。

もちろん、ローマの街中には、ミシュランが好きそうなフランス料理風の盛り付けの店もあるが、ローマの味を学ぶには不向きだと思う。私が求めて巡ったのは、すぐに家庭でも役立つ、ローマの「マンマの味」を楽しめる店。そういう店では、どれも間違いない店と胸をはって言える。

この一連の紀行文も今回で最終回となる。ローマに部屋を借り、面白いものを求めて歩きまわり、空かせたお腹を満たすために、毎日のように食材を買い求めた1か月。帰国の前日には、お世話になった店々に挨拶に寄り、皆とお別れの抱擁をした。

1か月では、まだまだローマはわからない。また訪れることは、間違いない。
(データは2016年7月時点のものです。)

写真・文/中川豊
1949年生まれ。メディア プロデューサー。出版社を定年退職後、現職。1971年インドへの旅以来、中近東、アフリカ、南米など約60カ国を旅する。近年は仏、伊、布哇を中心に「暮らしているかのような旅」を続ける。

【参考文献】
『暮らすように旅するイタリア』羽石宏美(メディアファクトリー)
『ローマ・ミステリーガイド』市口圭子(白水社)
『ローマ美食散歩』池田匡克・池田愛美(ダイヤモンド社)
『素顔のローマへ』水谷渚子(イカロス出版)
『地球の歩き方 ローマ』ダイヤモンド社

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