永遠の都・ローマ。ヨーロッパきっての観光地として名高い地だが、ほとんどの観光客はホテルに滞在し、せいぜい数日見物して他の場所に移動してしまうだけだろう。じっくり腰を落ち着けて、暮らすように旅してみたい……この夏そんな憧れを叶えたのが、元・出版社勤務の中川豊さん(66歳)。ローマの中心部に部屋を借りて1か月、ゆったり気ままに見て回り、食べて回ったローマ(とその周辺)の旅の記録を、数回にわたって紹介いただきましょう。
※前回の記事: ローマにアパートを借りて暮らすように旅してみた!【イタリア・ローマを歩く 第1回】
ローマには、遺跡の穴からパスタの穴まで、たくさんの「穴」がある。そんな多くの穴の中から、見たい穴、覗きたい穴、知られざる穴などなど、文字通りの「穴場」を訪ね歩いた。
まずは、誰もが知っている「パンテオン」から歩き始めよう。紀元1世紀から建っている、ローマを代表する建物のひとつだが、ここの天井の穴には「オクルス」と呼ばれる穴があいている。
ここから差し込む太陽光の表情は、時間ごとに変化し、見ていて飽きない。私が訪ねた日は、たまたまニースでのテロ事件直後……。差し込む光が、どこか哀悼の意の表情に見えた。
毎年、5月初旬から6月上旬の日曜日にある「聖霊降臨の日」には、この穴から数百万の真っ赤な薔薇の花びらが降り、床が赤い絨毯を敷いたようになるとのこと。いつか見てみたいものだ。
パンテオンを出て裏手に回ると、建立当時の地面の位置が見える。現在のローマが遺跡の上にあることを実感できる。
パンテオンを出た後は、ゲットー(旧ユダヤ人街)まで歩いて、レストラン『ジッジェット』(http://www.giggetto.it/)で、パリパリに揚げたアーティチョークとビールで喉を潤した。界隈はこのようなアーティチョークのフリット(揚げ物)を出す店が多い。「アーティチョーク通り」と勝手に名付けることにした。
『ジッジェット』は1923年創業の老舗レストラン。昼はアーティチョークだけの注文でも応じてくれる。
レストランを出て、有名な「真実の口」のあるサンタ・マリア・イン・コスメディアン教会へと歩く。「真実の口」の前には長蛇の列ができている。そして何のためらいもなく、穴に手を入れる人びと。『ローマの休日』でのグレゴリー・ペック以外、手を食いちぎられた人はいないようだ。
元は古代の井戸か下水溝の蓋と言われている。6世紀に建てられ、8世紀に改築された教会は、装飾が控えめで落ち着いた雰囲気だ。こちらは空いているので、ゆっくり鑑賞できる。
また教会の売店で「イケメン神父カレンダー」を発見。数年前から発売され10万部を越える年もあるとか。女性より男性が求めることがそうだが、なぜなのだろうか?
「真実の口」の次は、ローマっ子の大好きなアヴェンティーノの丘を目指した。結構急な上り坂なので、途中の薔薇園で一休みも良いかもしれない。
アヴェンティーノの丘に向かう途中、サンタ・サビーナ教会に立ち寄った。簡素で謙虚な感じのする、ローマでは珍しい教会だ。建立がルネッサンス以前なので、モザイクが美しい。その入り口近くの壁に、小さな穴があいていて、そこから聖ドミニコが植えたと言われるオレンジの木が見える。「清貧を促す穴」とも言われている穴だ。
オレンジ公園から歩いて数分、アヴェンティーノの丘に建つのがマルタ騎士団長の館。その鍵穴からは、ヴァチカンのクーポラが望める。結構な大きさの鍵穴。鍵はさぞかし大きくて、重かっただろうな。
十字軍以来の謎多きマルタ騎士団、今もコインや切手もあるようだ。そういえば、かのカラヴァッジョもマルタ騎士団に入った時期があった。
さて、丘からの坂を下り、テスタッチョ地区へ向かう。2012年に全面改装された新テスタッチョ市場で、小腹抑えにパニーニを食べ、家での料理に使う食材を調達だ。
最後に、市場から数分のところある、内臓料理の老舗『ケッキーノ・ダル・1887』(http://www.checchino-dal-1887.com/)へ。老舗ながら料理のシェアを快く受けてくれる。一皿、一皿にボリュームがあるので、小食な日本人にはありがたかった。
ローマの「穴めぐり」散歩は以上だが、おまけに番外編としてもう一つ「美味しい穴」をご紹介しておきたい。ローマ郊外のレストラン『マッツォ』(http://www.thefooders.it/mazzo/)の「鯖のリガトーニ」だ。
若い夫婦のシェフが切り盛りする店で、マンマの味の進化系が味わえる。ローマ中心部から10km離れているので、余程の健脚でない限り車で行くほうがよい。車なら約30分で着く。リガトーニの穴を目指して、わざわざ訪ねる価値のある店だ。
さて、次回は画家「カラヴァッジョ」の影と作品を探してローマを歩いてみたい。お楽しみに!
(データは2016年7月時点のものです。)
写真・文/中川豊
1949年生まれ。メディア プロデューサー。出版社を定年退職後、現職。1971年インドへの旅以来、中近東、アフリカ、南米など約60カ国を旅する。近年はフランス、イタリア、ハワイを中心に「暮らしているかのような旅」を続ける。
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