取材・文/末原美裕
京都の夏の暑さは盆地ゆえに厳しい、とよく言われます。昔から酷暑に晒され続けた京都だからこそ、“涼”をとる知恵が各所に息づいています。その一つが、高台寺の「百鬼夜行展と藤井湧泉奉納襖絵特別公開」。
“怖さ”を感じることで涼をとろうという、江戸時代から続く古典的な手法ですが、実際に人は恐怖を感じると体感温度は下がると言われています。
真夏の京都の楽しみ方を早速ご紹介していきます。
■ 高台寺は妖怪、幽霊と縁がある?
高台寺がある東山は、かつて京都三大埋葬地である鳥辺野を有していました。鳥辺野は「鳥辺野船岡、さらぬ野にも送る数多かる日はあれど、送らぬ日はなし」と『徒然草』に吉田兼好が記したほど、毎日葬送の煙が絶えない土地でした。そのため、あの世とこの世の境である六道の辻が存在したり、怪異と縁の深い土地となったのです。
また、お寺で百鬼夜行図や地獄極楽図を公開することの一つの意味として、恐ろしい妖怪たちが仏法の力で逃げていく様子や、生前の行いによって死後向かう世界が異なるということを描くことによって、仏教の教えをわかりやすく伝える役割があります。
妖怪や幽霊というと背筋が凍るイメージですが(それはそれで真夏の体を冷やしてくれます)、それだけではなく、高台寺の妖怪たちはどこかユーモラスで愛嬌が感じられますよ。
本展の期間中は、他にも高台寺所蔵の地獄極楽図なども見ることができます。また、夏の夜間特別拝観期間中(8月1日—18日)は、庭園のライトアップのほか、本堂前の波心庭にて百鬼夜行をモチーフにしたプロジェクションマッピングが行われています。
■ 初公開、藤井湧泉画伯が描く“妖女”
2019年の百鬼夜行展では藤井湧泉(ふじい ゆうせん)画伯の奉納襖絵である、「妖女赤夜行進図」が初公開されます。
怖さと美しさは紙一重。そう言いたくなるほど、艶かしい妖女たちが襖に並んでいます。
「襖絵を日本で初めて手がけたのは、高台寺の塔頭である圓徳院のものでした。それ以来、高台寺とは縁があり、百鬼夜行展に合わせた襖絵を今回描くことになりました」と藤井湧泉画伯。
当初は地獄図を描く予定だったそうですが、藤井画伯が過去に制作した妖女図が面白いと高台寺の元執事長が発言したことから、妖女を描くことになったそうです。
「最初は墨で描こうと思っていたのですが、高台寺と縁の深い豊臣秀吉は絢爛豪華なものを好むということから、色彩豊かな襖絵の制作に挑戦することにしました。
色を入れた襖絵は初めての制作だったということと、色を使うこと自体が久しぶりだったので、制作には時間もかかりましたし、自分でもどのように完成するのか予想がつきませんでした。
この挑戦で、新しい境地に至ることができ、感動しています」と藤井画伯。
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気温が高くなる京都の夏だからこそ感じられる風流な“涼”をとりに行きませんか?
くれぐれも妖女に魅入られ過ぎないよう、お気をつけください。
【開催要項】
『百鬼夜行展と藤井湧泉奉納襖絵特別公開』
期間:2019年7月15日(月)~8月31日(土)
※ 襖絵『妖女赤夜行進図』のみ9月29日(日)まで公開
時間:9:00-18:00(受付終了)、8月31日以降は9:00-17:00受付終了
※ 夏の夜間特別拝観期間中(8月1日—8月18日)は9:00-21:30受付終了
料金:一般600円
会場:高台寺
住所:〒605-0825 京都市東山区高台寺下河原町526番地
電話番号:075-561-9966
https://www.kodaiji.com/index.html
取材・文/末原美裕
小学館の編集者を経て、フリーの編集者・ライター・Webディレクターに。2014年、文化と自然豊かな京都に移住。