取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

三千院門跡門主となって6年。堀澤祖門老師の健康は、梅干しの種まで呑む朝の精進料理と、自ら考案した体操が支える。

【堀澤祖門さんの定番・朝めし自慢】

前列左から時計回りに、発芽玄米ご飯(小豆・日本酒)、納豆(大根おろし)、キムチ、梅干し、沢庵、野菜サラダ(キャベツミックス・胡瓜・トマト・貝割れ大根・豆腐)、昆布水、味噌汁(キャベツ・麩・青葱)。お手拭きの上は番茶。発芽玄米ご飯に入れる小豆は、仏さまのお下がりを利用。昆布水は上質の昆布を24時間水に浸けたもので、朝食前に飲む。野菜サラダは市販の胡麻ドレッシングで食す。

前列左から時計回りに、発芽玄米ご飯(小豆・日本酒)、納豆(大根おろし)、キムチ、梅干し、沢庵、野菜サラダ(キャベツミックス・胡瓜・トマト・貝割れ大根・豆腐)、昆布水、味噌汁(キャベツ・麩・青葱)。お手拭きの上は番茶。発芽玄米ご飯に入れる小豆は、仏さまのお下がりを利用。昆布水は上質の昆布を24時間水に浸けたもので、朝食前に飲む。野菜サラダは市販の胡麻ドレッシングで食す。

玄米ご飯は堀澤さんが見つけた炊飯器「CUCKOO New 圧力名人」で炊く。5時間ほどの浸水で玄米が発芽し、その後1時間ほどで炊飯。手軽に発芽玄米ご飯が炊け、しかも圧力が高いので、ふっくらと柔らかく炊き上がる。

玄米ご飯は堀澤さんが見つけた炊飯器「CUCKOO New 圧力名人」で炊く。5時間ほどの浸水で玄米が発芽し、その後1時間ほどで炊飯。手軽に発芽玄米ご飯が炊け、しかも圧力が高いので、ふっくらと柔らかく炊き上がる。

朝食は朝7時頃。「私は1日2食。朝食は精進料理ですが、夜は職員と同じ献立。好き嫌いがないので、出されたものは何でも美味しくいただきます」と、堀澤祖門さん。

朝食は朝7時頃。「私は1日2食。朝食は精進料理ですが、夜は職員と同じ献立。好き嫌いがないので、出されたものは何でも美味しくいただきます」と、堀澤祖門さん。

“京都 大原 三千院……”と、流行り歌にもなった三千院。その62世門主が堀澤祖門さんである。

「ここ三千院はもともと比叡山上にあった天台宗の宗祖、伝教大師最澄のご住房に始まります。その後、皇子皇族が住持する宮門跡となり、場所と名前を変えながら明治に入ってこの大原に居を定め、名前も三千院になったのです」

その最澄開基の比叡山延暦寺に「十二年籠山行」という静かなる荒行がある。「千日回峰行」が“動”の修行なら、こちらは“静”の修行といわれ、12年間比叡山中に籠り、下山は厳禁。最澄の遺体がある浄土院で毎日、食事を供え、掃除、読経、礼拝などのお勤めをするというものだ。昭和39年、この十二年籠山行を戦後初めて満行したのが、堀澤祖門さんである。

「十二年籠山行」は前半の6年は学問、後半の6年は実践が主と定められている。この写真は5年ぐらい経った28歳の頃。居室で『摩訶止観』を勉強する堀澤さん。電球と炬燵に時代が偲ばれる。

「十二年籠山行」は前半の6年は学問、後半の6年は実践が主と定められている。この写真は5年ぐらい経った28歳の頃。居室で『摩訶止観』を勉強する堀澤さん。電球と炬燵に時代が偲ばれる。

昭和4年、新潟県小千谷市に生まれた。旧制新潟高校に入学し、“再誕”というテーマに出会う。自分を生み直すという意味だが、これが自らへの根源的な問いかけとなり、その問題を解決できぬままに京都大学に入学する。

「大学では、私の心の琴線に響くものは何もなかった。そんな時、比叡山に呼ばれているような気がして、初めて登頂。そこで出会ったのが、叡南祖賢老師でした」

大学を中退し、出家得度。求道遍歴を積み、比叡山に帰山後は、後進の指導にも当たってきた。

三千院門跡門主に決まった時、学院長を務めていた叡山学院の教え子らが開いてくれた送別会。「卒業生まで来てくれて、この写真と寄せ書きが私の宝物です」と堀澤さん。

三千院門跡門主に決まった時、学院長を務めていた叡山学院の教え子らが開いてくれた送別会。「卒業生まで来てくれて、この写真と寄せ書きが私の宝物です」と堀澤さん。

京都・大原にある天台宗寺院「三千院」。1200年の歴史があり、三千院門跡とも称する。本尊は薬師如来、開基は最澄。平成25年、堀澤祖門さんは62世門主に就任した。京都市左京区大原来迎院町540 電話:075・744・2531

京都・大原にある天台宗寺院「三千院」。1200年の歴史があり、三千院門跡とも称する。本尊は薬師如来、開基は最澄。平成25年、堀澤祖門さんは62世門主に就任した。京都市左京区大原来迎院町540 電話:075・744・2531

茶で梅干しの種を呑む

堀澤老師の毎日は規則正しい。4時30分起床、洗面。4時45分から45分ほど坐禅を組んだ後、朝の勤行を15分くらい。30分ほどの筋力体操を終えた後、毎朝の剃髪。朝食は7時頃だ。

「十二年籠山中は3食とも精進料理で、豆腐と油揚げと蒟蒻が三種の神器でしたが、今は朝食だけが精進の献立。朝食前に昆布水を飲み、梅干しの種まで丸ごと呑み込むのが、私の健康法のひとつです」

梅干しの種には健胃・胃潰瘍、下痢・便秘、動悸・息切れ、肝機能障害などに効能があり、種は体内で溶けるのだという。ただし、未成熟の青梅の種にはアミグダリンという物質があり、食中毒の危険があるので完熟の種に限る。

卒寿にして艶やかな顔色と朗々と響く声、矍鑠たる姿。これは梅干しの種のお陰かもしれぬ。

著書『君は仏 私も仏』(恒文社)は、堀澤さんが説く“誰もが仏になれる”という法華経の教え。『枠を破る』(春秋社)は、自らの半生を辿り、我々がこれから進むべき 道を明快に説く。堀澤式仙骨健康法や筋力体操法も詳述している。

著書『君は仏 私も仏』(恒文社)は、堀澤さんが説く“誰もが仏になれる”という法華経の教え。『枠を破る』(春秋社)は、自らの半生を辿り、我々がこれから進むべき道を明快に説く。堀澤式仙骨健康法や筋力体操法も詳述している。

堀澤さんの歌集『蒼天遊行』。「堀青渓」はペンネーム。

堀澤さんの歌集『蒼天遊行』。「堀青渓」はペンネーム。

機関誌『三千院』(季刊)の冒頭には説法のつもりで毎号、巻頭文を寄稿。また、短歌欄では短歌歴55年の堀澤さんが添削した職員の作品も掲載。

機関誌『三千院』(季刊)の冒頭には説法のつもりで毎号、巻頭文を寄稿。また、短歌欄では短歌歴55年の堀澤さんが添削した職員の作品も掲載。

仙骨健康法と筋力体操で疲れしらず。求道の旅は続く

「80歳くらいになって、人間とか仏教とかが分かってきて、人生が楽しくなった」と語る堀澤祖門老師。自坊のある近江・坂本と京都・大原を行き来している。三千院自室前の庭で。

「80歳くらいになって、人間とか仏教とかが分かってきて、人生が楽しくなった」と語る堀澤祖門老師。自坊のある近江・坂本と京都・大原を行き来している。三千院自室前の庭で。

堀澤老師が、長年の経験から考案した健康法がある。仙骨健康法と筋力体操法である。

「仙骨とは尾てい骨の上部にある逆三角形の平たい骨。その上部の真ん中の一点を仙骨点と呼び、立ったままこの仙骨点に両手の親指を並べて当て、親指を前のほうにリズミカルに押し出す。1日200~300回ほどがお勧めです」

この運動を続けることにより全身の細胞や血管に刺激を与え、やがて全身が活性化するという。もうひとつ、10年ほど前から日課としているのが筋力体操法だ。

「体力が落ちるとは、筋力が落ちること。私が毎日している運動の中から、上体の運動を紹介しましょう。これを実践するだけで、確実に筋力アップになります」

時間があれば、堀澤式健康法のひとつである筋力体操を実践。両手を組んで頭の上に 置き、上を向いてできるだけ大きな8の字を描く。腰や身体の柔軟体操として最適だ。

時間があれば、堀澤式健康法のひとつである筋力体操を実践。両手を組んで頭の上に置き、上を向いてできるだけ大きな8の字を描く。腰や身体の柔軟体操として最適だ。

軽く両足を開いて頭の右回転、左回転を20回ずつ。次に顔を左と右に交互に20回ずつ。写真の8の字運動を30回ほど。これに続いて手と足の運動があるのだが、これらを毎日30分続けることで、まず風邪を引かなくなり、生命力が全身にみなぎるという。

食事と運動。ふたつの健康法で、求道の旅はまだ続く。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

※この記事は『サライ』本誌2019年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。

 

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