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80代になっても進化し続けた「若冲の美」|商人時代に描いた絵から最晩年の美の極みに至るまで

取材・文/末原美裕

江戸時代絵画を代表する絵師として多くの人を魅了する伊藤若冲(1716—1800)の40代から80代にかけて描かれた作品と、重要文化財「刺繍大日如来像」を始めとした宗教美術を中心とした展覧会「若冲と祈りの美」が、京都・細見美術館で開催されています。

本来の屏風は和室で座って眺めるもの。あえて低い位置に展示されているので、お座敷にいる気分で作品の鑑賞ができます。

本来の屏風は和室で座って眺めるもの。あえて低い位置に展示されているので、お座敷にいる気分で作品の鑑賞ができます。

伊藤若冲の精緻な彩色表現や自由闊達な水墨画風は、生きとし生けるものの姿を独自の視点で捉え、瑞々しい絵画世界を創り上げました。18世紀の京都画壇で異彩を放ち、近年では海外からも極めて高く評価されている若冲作品ですが、「そんな珍しいものを集めるなんて」と言われるような時代から細見家では、伊藤若冲作品の蒐集を行っていたそうです。

「細見美術館」上席研究員が解説する見どころ

京都の青物問屋に生まれた若冲が絵師として本格的な作画活動に入ったのは40歳になってからでした。本展覧会では若冲が商人時代に描いた絵から80代の美の極みに至るまでの、細やかな描写の移り変わりを18件の作品を通してつぶさに感じることができます。それぞれの作品の見どころについて、細見美術館上席研究員、岡野智子さんの解説とともにご紹介していきます。

《雪中雄鶏図》江戸中期

《雪中雄鶏図》江戸中期

「若冲の代名詞のようにもなっている鶏が出てくるこちらの作品は、“景和”と名乗り、青物問屋をしていた頃に書かれたものだと推定されています。作品のほとんどは絹地に書かれていますが、こちらは紙に描かれている、どこか初々しさを感じさせる作品です。クリアな雪の白さや濃淡で描く雪の立体感に着目してみてください」と岡野さん。“景和”と号していた頃の作品で、現在知られる若冲作の中では最初期の作品になります。とさかや羽、脚などの質感が写実的に描かれています。

《糸瓜群虫図》江戸中期

《糸瓜群虫図》江戸中期

「本展覧会のポスターにも選ばれた作品です。40代で制作した作品で、中国の草虫画や蔬菜図(そさいず)の技術を学びながら、独自の視点による表現で描かれています。細部まで丁寧な筆致には、若冲の自然への賛美や愛着が感じられます。

実際には糸瓜(ヘチマ)はこんなに長くないですし、多種の生き物が同時に生息することもないでしょう。糸瓜の実や花、蔓が複雑に交錯する空間に身近な虫たちを配して楽しく集う“虫たちの理想郷”を創り上げています」と岡野さん。
本図には蛙や蝸牛を含む11匹の生き物が描かれています。実際にご自身の目で見つけてみてください。

《鶏図押絵貼屏風》寛政9年(1797)

《鶏図押絵貼屏風》寛政9年(1797)

「80代、最晩年の作品です。尾羽は宙を舞うように幾重にも弧を描き、速い筆さばきで各様の羽を描き分けています。鶏のポーズも上向きや正面向き、さらに静動を取り合わせ、屏風の12図すべてで違った表情を見せています。初期の鶏の絵と比べると脚が太くなり、存在感を増しているのがわかります。また生き物の生命力がほとばしっている様が感じられますよ」と岡野さん。

背景がなく、墨の濃淡を活かして描かれたユーモラスな表情は躍動感に富んでいます。一方で特に雌鶏には似通った姿も見られ、最晩年の若冲画は形式化が進んでいたこともうかがわれます。

《重要文化財 刺繍大日如来像》鎌倉時代

《重要文化財 刺繍大日如来像》鎌倉時代

若冲作品の他にも若冲の交流関係が伝わってくる弟子の作品や重要文化財「刺繍大日如来像」など、細密な刺繍の技法で作られた穏やかな仏の微笑みをたたえた美しい心の祈りを感じさせる作品も同時に味わうことができます。

伊藤若冲と宗教美術、それぞれに通じるのは表現対象に真摯に向き合い、美に昇華した作り手の崇高な精神かもしれません。日本が育んできた美の豊かさを令和元年の寿ぐこの時に、味わいに行ってみてはいかがでしょうか。

細見美術館【美の饗宴 若冲と祈りの美】

■会期:2019年4月27日(土)〜6月16日(日)
■開館時間:午前10時 〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
■休館日:月曜日
■入館料 : 一般 1,300円、学生 1,000円
■住所:細見美術館(京都市左京区岡崎最勝寺町6-3)
■電話番号:075-752-5555

取材・文/末原美裕
小学館を経て、フリーの編集者・ライター・Webディレクターに。2014年、文化と自然豊かな京都に移住。

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