文・写真/石橋貴子(海外書き人クラブ/スコットランド在住ライター)
イギリスは雨が多いーそんなイメージをお持ちの方が多いかもしれない。しかし、意外なことに、日本の方がイギリスより雨は降っている。ある統計*によると年間雨量は東京1,531mmに対し、ロンドン601mm。東京の方が何と約2.5倍も降っている。
筆者はイギリス連邦国の一部である、スコットランド最大都市グラスゴーに在住し、「イギリス人は傘をささないの?」と日本にいる友人から質問されることがある。すると私は次のように答える。「傘をささないイギリス人は確かに多い。しかし雨が降っても、傘をささない理由はある程度理解できるようになった」なぜ理解できるようになったか?考察してみたい。
*出典:Wikipedia(東京は気象庁、ロンドンはMet Officeデータ)参照。
気候からの考察
(1)イギリスは、霧雨が多い
“霧の都”とロンドンが称されるように、イギリスでは細かい霧のような雨が頻繁に降る。この霧雨、空中を雨が浮遊する感じで、意外と傘で防ぐのが難しい。だから、イギリスでは雨が降り出すと、ひょいとフードをかぶり、雨を気にしないかのように、スタスタと歩き続ける人が多い。そして老若男女問わず、フード付きやウォータープルーフのアウトドア用ジャケットを日常的に着ている人が多い。
(2)イギリスは、横振りの雨も多い
イギリスは、風の強い日が多い。せっかく傘をさしたとしても、傘以外の部分から、横から後ろから斜めから、あらゆる角度から雨が人間を攻めてくる。また強い風は傘を奪ったり、ひっくり返したりすることがあるため、傘を持つことが危険であると考える人もいる。
(3)イギリスは、天気がコロコロと変わる
「イギリスには一日の中に四季がある」という表現がある。朝どんよりとしていたと思うと雨がしとしと降り出し、昼に雨が強くなり、夕方に突然強い陽射しが出る、なんてことがよくある。
フランス人画家モネがロンドンで絵を描いていたとき、天気があまりにも変化するため「絵の色が決まらない!」と立腹したという逸話があるほどだ。
つまり、イギリスでは傘を持つなら、毎日持ち歩くことになってしまう。
傘の“歴史”からの考察
・3,000年前のエジプトで「日傘」が生まれた。
・紀元前の中国で「雨傘」が生まれたが、その後、長い期間にわたり、ヨーロッパで「傘は女性のアクセサリー」であり続けた。
・1700年代中期にイギリスの慈善家・旅行家ジョナス・ハンウェイが傘を持ち込む。持ち込んだ当初は嘲笑の対象であったが、次第に見慣れたものになった。
・1830年にジェームズ・スミス&サンズという傘専門店がロンドンに登場。
・1852年にサミュエル・フォックスが、スチール製の軽量フレーム傘を開発。
・1928年にドイツ人ハンス・ハウプトが、折畳み傘を開発。
傘の“語源”からの考察
傘の英語“umbrella”の語源は、影を意味する“umbra”というラテン語であり、“日除け”として用いられていた。
つまり、傘とは本来日傘であり、その後、雨傘が生まれたことが、傘の歴史また言語の世界からうかがい知ることができる。
イギリスの伝統“コートで雨をしのぐ”方法が育つ
イギリスでは歴史的に雨風をしのぐ方法として、傘よりも外套に依存していた時代が長い。一方で「傘は女性の持ち物」というイメージが強く、傘は男らしくないというイメージが保守的な人々の間に残り、傘をさすことをためらう男性も存在する。また、雨傘をさすのに不利な気候(霧雨、横振りの雨、頻繁に変化する天気等)も影響し、コート(外套)がイギリスを中心に発展してきたと考えられる。
イギリスには、現在も活躍するコートブランドがある。防水性を重視し、軍用の外套として作られた「バーバリー」、ゴム引きの防水布を使った「マッキントッシュ」、オイルコーティングしたコートの「バブアー」等が有名であろう。
しかし昨今のイギリスでは、ブランドにこだわらず、機能性とコストパフォーマンスを重視した防水機能付きのアウトドア用ウェアを着用する人が多い。
それでも少し変わってきた、イギリスの傘事情
世界的な温暖化の影響もあり、イギリスでも傘の使用率が以前より高まっていると現地イギリス人から聞く。イギリス人が一般的に使用する傘は、大きく分けて2タイプ。1つは、イギリスの強い雨風にも対応しやすいゴルフ傘、もう1つは予測不能な雨に対応できる折り畳み傘だ。
なお日本でよく見られる透明なビニール傘は、少数派である。日本のビニール傘は、ほぼ使い捨て感覚で使われているため、環境意識が高いイギリスではなじみにくく、一方で王室御用達ブランドのフルトンのビニール傘が存在するが、最低でも20ポンド(日本円で約3,000円)するため、街で見かけることは少ないのが現状だ。
文・写真/石橋貴子(海外書き人クラブ/スコットランド在住ライター)
イギリス連邦国の一部である、スコットランド在住。コピーライター・編集者としての25年以上の職歴と、ジャーナリスム専攻ならではの視点を活かし、日々アンテナを張り巡らせて、スコットランドとイギリスの隠れた魅力をお伝えしている。海外書き人クラブ所属。(http://www.kaigaikakibito.com/)