選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
男が裏声で歌うカウンターテナーの中性的で気品ある魅力は、日頃クラシック音楽に親しみのない人々の心を一撃でつかむための必殺兵器といっても過言ではない。男とは、女とは、少年とは、大人とは何かということについて、根源的な問いすら投げかけてくるからだ。
このところ若い世代に、次々と新しい魅力的なカウンターテナーが登場してきているが、その中でも特に注目されるのが、1981年アルゼンチン生まれのフランコ・ファジョーリである。『ヘンデル:アリア集』は、超高音から低音までを駆使する、華麗な声の技が堪能できる。
その特徴は、声の色が濃く、歌の抑揚が力強いということ。喜びに満ちて高く舞い上がるようなアリアから、涙に濡れたような感情を吐露するアリアまで、かつて18世紀のロンドンを席捲したヘンデルのオペラの最高のエッセンスが、ここにはある。
【今日の一枚】
『ヘンデル:アリア集』
フランコ・ファジョーリ(カウンターテナー)
2017年録音
発売/ユニバーサル ミュージック
電話:045・330・7213
販売価格/2800円
https://www.universal-music.co.jp/p/479-7541/
※ちなみにこの11月18日から25日にかけて、ファジョーリの初来日公演が、兵庫・福岡・東京・水戸で開催される。奇跡の歌声をライブで聴くことができる絶好のチャンスである。
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http://www.allegromusic.co.jp/FrancoFagioliwithVBO.html
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年9月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。