群馬県の草津・四万(しま)という有名泉に挟まれた地に立つ一軒宿、「かやぶきの郷薬師温泉旅籠」。旧草津街道沿いにあるこの宿は、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような風情に満ちています。
敷地の玄関口に立つのが合掌茅葺切妻造りの長屋門で、二階部分からは「かやぶきの郷」という敷地全体を見渡すことができます。
宿のフロントにあたる本陣は屋根の長さ約42mにわたり厚さ約1mのかやが葺かれ、入り口には重厚な蔵戸が設えられています。客室にも囲炉裏や古民具、和箪笥などが配され情緒たっぷりです。
さらに圧巻なのが、数百点もの古美術品を展示する「時代もの展示処」です(日帰り入浴でも見学可)。鎧兜や蒔絵、古伊万里のほか、筒描きと舟箪笥が並ぶ回廊は見ごたえ十分。筒描きとは伝統的な手染め技法のことで、藍色の木綿や麻の生地に白や赤、青などの色で、鳳凰や富士山、松竹梅などを描いたもの。江戸庶民の粋を垣間見ることができます。
薬師温泉は200年ほど前から自噴する温泉で、泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉。湯船には湯量豊富な源泉があふれ、よく温まり疲労回復に効果があります。宿の裏手にかかる滝と新緑を眺めながらの湯浴みは、清々しい気分になります。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。