写真・文/野口さとこ
むかしある村で、できものの病気が流行り、子ども達がかゆさと痛さに泣いていました。村人たちは、お地蔵さまにお清めの塩を塗りつけて、子ども達の身代わりになって下さる様、お願いしました。
すると子ども達のできものは治りましたが、それを知った人たちがお地蔵さまの元を訪れたため、お地蔵さまはやせ細ってしまいました。
こんなエピソードのあるお地蔵さまが、神奈川県川崎市にある医王寺の境内にいらっしゃる。
たくさんの塩が塗られたために、お身体が溶けてしまったようだ。
なぜ溶けるのか? 気になって調べてみると、この現象は塩類風化といって、塩が付いた岩石は、湿潤と乾燥を繰り返すことにより、膨張と破壊を繰り返し、風化していくのだということだった。
骨と皮と筋になった痛々しいお姿を見た、科学も医学も発達していなかった当時の人々は、お地蔵さまが身を削って働いて下さったと感じ、さぞ驚き、感激したのではなかろうか。
祠を覗くと、闇の中に華奢な姿が浮かび上がった。
お地蔵さまは、どこか妖艶な曲線を描いていて、まるで現代美術の彫刻を鑑賞しているような心持ちがした。
写真・文/野口さとこ
写真家。北海道小樽市生まれ、京都在住。1998年フジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。2011年 写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで作品が展示される。2014年より、移動写真教室“キラク写真講座”を主宰。可愛くてあたたかい、そんなお地蔵さまの魅力に取り憑かれ、お地蔵さま撮影のため全国津々浦々を旅している。http://www.satokonoguchi.com/