写真・文/野口さとこ
そもそも、お地蔵さまとはどういった存在なのだろうか。とくに外国の方に説明するとき、どのように説明したらいいものか常々困っていたところ、とあるお地蔵さまがひとつの示唆を与えてくれた。
京都の路地を彷徨っていたときに見つけた、4体のお地蔵様が集合している一角。よく見ると、その中の1体に羽根が描かれていた。
そのお地蔵さまを見た私は、思わず膝を打った。なるほど、お地蔵さまとはエンジェルだったのだ。
人間ひとりひとりに寄り添い、救い導く“神の使い”であるキリスト教のエンジェルは、お釈迦様の入滅後、56億7000万年後に弥勒菩薩が出現する間の無仏の時代(つまり今)、迷える人々を救うお役目を担った“釈迦の使い”であるお地蔵さまの存在と、とても似ていると思った。
ところで、日本の神仏習合の歴史において、私が常々疑問だったことは、なぜキリスト教の神は、日本の神と習合できなかったのだろうかということだ。
やはり多神教の神と一神教の神とでは、性質が違いすぎたということなのだろうか。あるいは、日本の神々がおおらか過ぎて、一神教の神のほうが拒絶したのかもしれない。
意識的にせよ無意識的にせよ、お地蔵さまに羽をつけてしまった某さんは、いとも簡単にこんな小さな場所で、エンジェルと地蔵を習合させてみせた。
羽が描かれたお地蔵さまには、この日以来、他に出会ったことはないが、私にとってはとても重要な出会いであった。
写真・文/野口さとこ
写真家。北海道小樽市生まれ、京都在住。1998年フジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。2011年 写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで作品が展示される。2014年より、移動写真教室“キラク写真講座”を主宰。可愛くてあたたかい、そんなお地蔵さまの魅力に取り憑かれ、お地蔵さま撮影のため全国津々浦々を旅している。http://www.satokonoguchi.com/