写真・文/野口さとこ

京都市左京区北白川。琵琶湖疎水の流れる自然豊かな遊歩道の脇の理容室のお隣に、お地蔵さまの小さな祠がある。

訪れたときは、白い花を咲かせたアジサイがお地蔵さまの祠を彩って、素敵な風景を作っていた。

祠の中には、これまた小さなお地蔵さまが、味わい深いにっこり笑顔で迎えてくれた。三本の曲線で描かれたシンプルにして福々しい表情に、思わずこちらの顔もほころぶ。

祠を管理されている隣の理容室「比良奈美」を訪ねてみると、店内から奥さんが出てきて、お地蔵さまにまつわる話を聞かせてくださった。

このお地蔵さまは、奥さんのお父さんが京都市左京区に越してきてしばらくした頃、町内のおじさんがどこからかもらってきたといって、理容室のオープンを機にこの祠を作り寄進したそう。

以来、ずっとこの場所で人々を見守り続けてくれているのだ。

お地蔵さまをもらってきた当初は、普通の石仏だったが、20年くらい前から地蔵盆のたびに子供たちがお顔を洗い流して、新しく描くようになった。だから毎年お顔がかわる。でも基本はいつも、にっこり笑顔だ。

2011年はこんなお顔だった。

ある時、理容室の隣の建物を壊してガレージにしようという話になり、そのためには祠を移動させなければならなくなった。念のため祈祷師の元を訪ね、お地蔵さまに聞いてもらったところ、

「ここにいたい、離れたくない」

と言っているとのこと。

お地蔵さまがそう思って下さっているならば、とガレージ計画は中止にしたという。

「家族が元気に過ごせるのも、このお地蔵さまのおかげかな」と、奥さんは笑顔で語ってくれた。

以来、毎日お水を欠かしたことがないという。祠も花も綺麗に保たれている。お地蔵さまが居心地よさそうにしているのも頷ける。

ちなみに、このお地蔵さまは正確には大日如来さまだという。京都の町のお地蔵さま達は、大日如来さまも観音さまも“お地蔵さま”とひとくくりにされていることが多いのだ。

それにしてもこの祠を覗くたび、そのにっこり笑顔にこちらも思わず顔がほころぶ、何ともありがたいお地蔵さまなのであった。

写真・文/野口さとこ
写真家。北海道小樽市生まれ、京都在住。1998年フジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。2011年 写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで作品が展示される。2014年より、移動写真教室“キラク写真講座”を主宰。可愛くてあたたかい、そんなお地蔵さまの魅力に取り憑かれ、お地蔵さま撮影のため全国津々浦々を旅している。http://www.satokonoguchi.com/

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2024年
12月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

「特製サライのおせち三段重」予約開始!

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店