《5日目》小出駅  ~  只見駅

16時53分、只見方面からディーゼルカーが到着した。白地に青いラインをまとった新潟支社所属の車両だ。2011年の水害で不通となって以来、こちらに足を伸ばせない会津若松の車両に代わり、この区間を受け持っている。

小出駅を出てすぐ、魚沼川の鉄橋を渡る。

只見線は今度は町の北側を走り抜け、町はずれで最初の停車駅・薮上駅に到着する。

学校帰りの乗客を少し乗せて、時刻どおりに出発。信濃川の支流魚野川のそのまた支流に沿って遡るように山間の里を走る。

学校帰りは食事タイム。みんな大きなおにぎりを持っている。そういえば沿線は魚沼産コシヒカリの産地なのだ。

一駅ごとにお客さんが降りる。乗ってくる人はまずいない。

季候も良いし乗客も少ないので、窓を開けて風を楽しむ。走るほどに標高が上がり、気温が下がってゆくのが解る。日没も近い。

入広瀬駅で見かけたプランターはディーゼルカー。植え替えの時期だったのか花は入っていなかった。

小出を出て7つめの大白川駅を過ぎると、終点の只見駅まで約20キロ。ただしもう終点まで駅はない。

山が迫り気温もいっそう下がってゆく。列車は深い淵の鉄橋をわたり、山間をくねくね曲がりながら六十里越トンネルに入る。会津と越後を結ぶ最大の難所六十里越えだ。

全長6359mで、完成当時は日本6位の長さを誇ったトンネルである。現在でも在来線で8位の長さがあるという。正確なことはわからないが、非電化のトンネルとしては日本一長いトンネルかもしれない。

只見線はJRでもトップクラスの赤字線である。その只見線が廃止を逃れ生きながらえることができたのは、ひとえにこのトンネルのおかげ。平行する道路が冬期間は雪で閉鎖されるので、交通を確保するためと言うのがその理由だ。こんな赤字路線を持ちたくないであろう鉄道会社にしてみれば、恨めしい存在のトンネルなのかもしれない。

大白川駅から只見まで20.8km。トンネルと山道が連続する。人家は全く姿を消した。

スノーシェッドの中にある田子倉駅跡を通過。2013年に廃止されたが、ほぼそのままの姿でホームにはベンチが残されていた。

トンネルを抜け出てしばらくすると列車は速度を落とす。右手の車窓に、しばらく使われなくなってしまったターンテーブルが見えると只見駅に到着だ。

2001年から始まった蒸気機関車の復活運転に伴って、その翌年に整備された物だ。しかし2011年に只見~会津川口が不通となってから使われることがなくなってしまった。蒸気機関車が走るときはこの周辺に見物客が集まってとても賑やかだったのだが、今は草原に埋もれはじめている。再びここに多くの人が集まるようになれば良いのだが。

只見駅のホームから、小出側を見ると、今トンネルで抜けてきた山並みが見えた。

只見駅前では不通区間をつなぐ列車代行バスが待ち構えていた。乗客は誰もいない。運転士さんが期待を込めたような目で、「乗られますか?」と尋ねてくる。なんだかとても申し訳ない気分になって「すみません、今日はここに泊まるので、明日の朝乗ります」と応えた。

運転士さんは、「あ、大丈夫ですよ、明日はよろしく!」と言って、誰も乗らないバスを発車させていった。駅長さんと一緒にバスの発車を見送った。<6日目に続く!>

【実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅】
※ 1日目《枕崎駅~熊本駅》
※ 2日目《熊本駅~宮島口駅》
※ 3日目《宮島口駅~名古屋駅》
※ 4日目《名古屋駅〜戸狩野沢駅》
※ 5日目《戸狩野沢温泉駅~只見駅》
※ 6日目《只見駅~鶴岡駅》
※ 7日目《鶴岡駅~ウェスパ椿山駅》
8日目《ウェスパ椿山駅~函館駅》
9日目《函館駅~旭川駅》

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

 

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