文・写真/鳥居美砂
ルイジアナ州ニューオリンズからスタートして、ブルースの聖地であるミシシッピ州クラークスデール、エルヴィス・プレスレリーゆかりの地テネシー州メンフィス、そして、黒人解放運動の舞台となったアラバマ州モントゴメリーを車で巡り、再びニューオリンズに戻ってきた。
ディープサウスと呼ばれるアメリカ南部の深部にわけ入り、この地で生まれた文化に触れてきた。それは音楽であり、料理であり、人間の尊厳に関することでもあった。いよいよ、その旅にも終わりが近づいてきたようだ。
この最終回では、第1回でレポートしきれなかったニューオリンズの食文化と“闇の世界”についてご紹介しよう。
■ニューオリンズの名物レストラン3軒
まずは、ニューオリンズならではの食について。
1840年創業の『レストラン アントワンズ』は、ニューオリンズを代表する老舗レストラン。ディナーはちょっと敷居が高いが、ランチなら比較的リーズナブルで、カジュアルな服装でも大丈夫だ。
この店では、ヨーロッパの影響を受けたクレオール料理が食べられる。そのひとつが、「ざりがにのエトフェ」である。ニューオリンズでは牡蠣や海老などのシーフードがよく食べられるが、ざりがにも名物で、「エトフェ」はスパイシーなトマト味の煮込み料理。バターの風味が効いていて、そこがフランス料理の影響を感じさせるところだ。
ちなみに、贅沢なソースをかけて焼いたことから名付けられた牡蠣料理「オイスター・ロックフェラー」は、この店が発祥だという。
ニューオリンズでレストランをもう1軒挙げるなら、それは『ブレナンズ』になるだろう。“ブレナンズで朝食を”という有名なキャッチフレーズで知られる高級店である。
サービスも超一流なので、チップもそれなりにはずまないといけない。朝食といえども最低で50ドルほどになるので、私の人生で一番高い朝食だ。
優雅な朝食とは反対に、“アメリカ南部のお袋の味”が“売り”のレストランが『マザーズ レストラン』。中でも、自家製ハムが名物で、トウモロコシの粉を練った「グリッツ」や「コーンブレッド」といった素朴な味を楽しめる。
■墓地を見に行く『セメタリー・ヒストリー・ツアー』
さて、ライブハウスをはしごしてジャズやブルースを聴いて、地元の料理も味わった。しかし、あとひとつ、ニューオリンズでやってみたかったことが残っている。それが、墓地を見に行くことだ。
映画『イージー・ライダー』の中で、ピーター・フォンダとデニス・ホッパーはバイクに乗り、ニューオリンズを目指す。到着後、マルディグラのパレード(謝肉祭)で賑わう街中を避けて、彼らが向かった先が共同墓地だ。この墓地をガイドとともに巡る『セメタリー・ヒストリー・ツアー』があったので、参加してみた。
ニューオリンズは土地が低く、度々洪水に見舞われてきた。かつてはお墓が流され、棺桶の中の骸骨が歩き出すように見えることもあったそうだ。それで、レンガを組んで漆喰でしっかりと固め、地面より高くお墓を作る。
お墓の価格は日本円で一千万円以上はするようで、ひとつの墓を代々使うという。亡くなった人が棺桶の中で骨と化す頃に、ちょうど次の身内が亡くなり、その骨を隅に押しやり、次の亡骸を収めるというわけだ。
このセメタリー・ツアーのほかにも幽霊屋敷を巡るゴースト・ツアーやヴァンバイア・ツアー、ブードゥー(アフリカの精霊信仰とキリスト教が混ざり合った宗教)・ツアーといった幽霊やオカルトをテーマにしたツアーが盛り沢山。いずれも、ガイドと一緒にニューオリンズの街中を徒歩で巡る、2時間ほどのツアーだ。
* * *
こうして、アメリカ南部を、ブルースを求めて車で旅するという私の長年の夢はかなった。しかし夢は、いつかは覚めるものだ。胸いっぱいの思い出を携えて、日常の暮らしに戻るとしよう。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。『サウンド・レコパル』などで音楽記事も担当。