窓を開け放って島の空気や時間を感じてください【星野佳路さんの「星野流」旅指南 第2回】

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談/星野佳路(星野リゾート代表)

2005年、沖縄の離島地域の活性化を図るために、内閣府の「美ら島ブランド委員会」というプロジェクトが立ち上がりました。その際に声をかけていただき、委員のひとりになりました。

沖縄は広大な海域に160の島々が点在し、そのなかに49の有人島があります。それぞれの離島には豊かな自然環境と伝統文化があります。私が委員会で訪ねたのが竹富島でした。

竹富島はいっさいの開発を拒否し、島の規律を守り、伝統文化をかたくなに守ってきたところです。しかしそのために、観光振興という効果が得られずに、人口減少や経済問題などがおきていました。委員会ではそのような問題を議論するとともに、島の魅力を多くの人々に知っていただくにはどうしたらいいか、という話をしました。

その後、竹富島の方々との交流を通じて、観光による離島振興の提案をしてほしいとお声をかけていただきました。その段階で、大型のリゾートを作るのではなく、竹富島らしさを表現することを強調しました。そして事業としてスタートをしたわけですが、島民のうち賛成が2割、反対が1割、残りが中間派という感じでした。

反対派の方のなかには強硬な方もいました。そこで計画の中身はもちろんですが、私という人間を知ってもらうために何度も島へ足を運び、話し合いを持ち、計画への賛同を得ることができました。

竹富島は「うつぐみの島」と呼ばれます。うつぐみとは、みんなで一致協力し、助け合う精神のことです。このうつぐみの精神で、島の美しい景観と伝統文化、さらに生活スタイルそのものが大切に守られてきました。

竹富島の方たちには、いわゆるサムライ精神があると思っています。私は島の文化と自然を守ることと、地域振興のための観光事業は両立できると信じています。それを実現するための形が『星のや竹富島』なのです。

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「離島の集落」を謳う「星のや竹富島」敷地内の48棟の客室。集落全体を見晴らす見晴台からは太平洋を望むことができる。

■琉球古来の手法で建てられた、 伝統文化を踏襲した施設

竹富島は石垣島の南西海上約6㎞にあり、サンゴ礁が隆起してできた周囲約9㎞の楕円形の島です。島のほぼ中央部にある東、西、仲筋の3集落は、かつての琉球の農村集落の景観をよく留め、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

白砂を敷きつめた道やサンゴ石灰岩の石垣、赤い瓦葺きの民家とフクギなどの屋敷林が整然と立ち並んでいます。石垣島から船で約10分、竹富島に上陸したとたんに、赤瓦の屋根が連なり、白砂の道が美しく掃き清められている。驚くような非日常の世界が広がっているのです。まさに日本のなかでの異文化体験ができるのが竹富島です。

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星のや専用の水牛車で竹富島の町並みを散策。島の歴史解説や三線の演奏も楽しめる(ひとり1500円)。

『星のや竹富島』を建てる際には、竹富島の原風景を守り、文化を伝えていこうと思いました。ここをひとつの「集落」と考え、家屋を囲むグックと呼ばれる石垣は地元職人がひとつひとつ手積みで組みました。

道は車が導入される以前の、少し狭い道幅にしています。グックには既存集落と同様に「石敢當」が埋め込まれています。これは魔よけで、沖縄では魔物は直進しかできないといわれ、道がグックに突きあたるポイントに設置されます。

48棟ある離れ形式の客室は、島の伝統建築を踏襲しています。琉球赤瓦の屋根、魔よけのシーサー、客室の入口には石積みの壁・ヒンプンが立てられています。これは路地から家が見えないようにするための目隠しであり、魔物が家に侵入するのを防ぐ目的もあります。

竹富島の家屋は玄関がなく、広い縁側が「ゆんたく」(おしゃべり)の場なのです。その縁側はすべて南向きに設計され、海からの心地よい南風を迎え入れます。客室の北と東には防風林のフクギを植栽しています。

自然環境の面でいえば、竹富島には原生林がありません。かつてギンネムという生長の速いマメ科の外来種が薪炭や山羊の餌用に移入されましたが、今は大変除草しにくい植物となっています。島を巡り1年以上をかけて竹富島らしい植生を探り、研究しました。

またこの島に水道が通ったのは昭和51年です。それまでは雨水が頼りでした。ですので節水機能を備えた設備にすると同時に、排水を浄化槽とビオトープで地下浸透させて処理しています。ゲストの皆さんが環境面で過敏に気を遣っていただくことのないように、設備を整えています。

私は、ここに無理やり西洋のビーチリゾートのようなものを作っても意味がないし、そのようなものは必要ないと思っていました。ビーチとプールのリゾートならば、ハワイやバリに行けばいい。日本の中の、竹富島という素晴らしい文化を持った場所に、その文化観光という位置づけがされたリゾートを造りたいと思ったのです。島の価値をきちんと伝えられる拠点。一年を通して島の魅力が伝えられる拠点。それを目指しました。

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ダイニングなどがある集いの館と24時間利用できるプール。

『星のや竹富島』での滞在で、ぜひ実践していただきたいことがあります。それは窓を開け放って滞在してほしいということです。

縁側の窓は全開できます。島人たちは窓を開けて風通しをよくして生活しています。エアコンをつけなければ暑いかもしれない、虫も入ってくるかもしれない。しかしそれが竹富島の生活なのです。それで良しとしてほしいのです。

客室の設計概念は、一棟ごとに仕切られたプライベートな庭、縁側という外と中を繋ぐ居心地の良いリビング、そしてエアコンで快適性を維持できるベッドルームとバスルーム、という3層構造です。

窓をすべて閉め切ってエアコンをつけて快適に過ごしてくださってもいいのですが、島の住民になりきり、暮らすように過ごしていただくためには、わざと窓を全開にしてほしいのです。

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客室のリビングには琉球畳とフローリングの2タイプ。

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客室の縁側にて。竹富島の家屋には玄関がない。「こんなふうに窓を全開にし、縁側に座っておしゃべりするのが島のスタイルです」(星野さん)

そして24時間利用できるプールもありますので、暑い昼間は動かずに、夕方、涼しくなったらプールで遊び、食事をし、夜は泡盛でゆんたく。それが島の文化なのです。

また、八重山諸島は素晴らしい星空を満喫することができます。窓を開け、縁側でごろっとしながら満天の星を楽しんでもらいたいですね。

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夜空を見上げれば天の川が近い。

この島の良さは3日目くらいから実感することができます。都会の喧騒の中で暮らしていた鈍感な体が、だんだん島の気候や時間に慣れてきて、風のざわめきや鳥の声などがよく聞こえるようになってくるのです。

食事や散策をしに既存集落に出かけると、知った顔が増えてくる。挨拶したりおしゃべりしたり。島人との交流も生まれて、島で暮らしているような気分になる。積極的に既存集落を歩いてほしいので、滞在される皆さんには、集落の水牛車散歩や、伝統工芸のミンサー織り体験などを用意しています。

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竹富民芸館にてミンサー織り体験(ひとり3000円)。伝承者の島仲由美子さんの指導で、テーブルセンターを織る。

夏はマリンスポーツなどで賑わう竹富島ですが、秋から冬にかけてはゆったりと落ち着いた時間が流れます。そこで1週間の滞在プランをおすすめしているのですが、予想外のお客様が利用してくださっています。30代、40代のひとり旅。男女ともにです。

いったい何をしているのかと、スタッフに尋ねると、「ノートパソコンを持ち込んで仕事をしていらっしゃいます」「あらかじめ、大量の本を宅配便で届けて、日がな一日読書をされています」。

なるほど、それはひとりに限る。連れがいるとなかなか自分の自由になりませんからね。普段できない自分の時間を取り戻す。旅をするというより、住むように過ごしてみる。人生の充電時間を楽しむことも提案したいですね。

【星のや竹富島】よんなー深呼吸

アイヤル浜での早朝の「よんなー深呼吸」(無料)。潮風を浴びてストレッチ。

■日本の四季が生み出す食材で 沖縄の食の底力を示したい

島の文化観光というと、食もそのひとつです。沖縄の食の変革をしたいと、長野の『軽井沢 ホテルブレストンコート』のレストランの料理長だった中洲達郎が就任。フランス料理界で最も権威のある「ボキューズ・ドール」国際料理コンクールに日本代表として出場し、世界大会第9位の成績をおさめたシェフです。ただし本人は第9位というのが納得いかなかったようであり、ちょっと燃え尽き感もあったようです(笑)。そこで新しいステージへ。使ったことのない沖縄食材に出会い、彼が培ってきた技術と創造力がいかんなく発揮された料理に進化しています。

今、島の産業は車海老の養殖がメインなのですが、私たちは野菜やハーブなどを生産者と一緒に耕すところから始めています。じつは沖縄は食材のレベルが非常に高い。それは旬があるからなんです。ハワイやバリとは違う。それが日本の面白さです。

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島人参や島大根、マンゴー、摘みたてバジルなどが独創的な料理へと変身。

【星のや竹富島】琉球ヌーヴェル(エビ)2

夕食は沖縄の食材をフレンチの技法でコース料理に仕立てた「琉球ヌーヴェル」(ひとり1万2000円)。

器は読谷焼の大嶺工房の作品を用いています。沖縄の文化を食で発信したいので手伝ってほしいと、お願いして作っていただいているもので、沖縄らしい発色や形が、中洲の作り出す料理と合うんです。ゴーヤチャンプルーやソーキそばだけではない、沖縄の食材の底力を、日本のリゾートの魅力を、存分に感じてもらいたいですね。

ところで、離島振興にはアクセス確保が大きな問題です。新石垣空港とLCC(ローコストキャリア/格安航空会社)のおかげで、八重山諸島はずっと身近になりました。日本の各観光地が世界でフェアな競争ができるように、世界各地からの足を確保するために、LCCの普及には大いに期待したいです。インバウンド(海外からの観光客)の促進は観光立国・日本の大きな課題ですから。

【星野や竹富島】
所在地/沖縄県八重山郡竹富町字竹富
電話/0570・073・066(星のや総合予約)
チェックイン15時/チェックアウト12時
1泊1室63,000円~ ※基本2泊から。

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星野佳路(ほしの・よしはる)
昭和35年、長野県軽井沢町生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院にて経営学修士号を取得。平成3年、株式会社星野温泉(現・星野リゾート)代表取締役社長に就任。平成15年には国土交通省より、第1回観光カリスマに選定。趣味はスキーで国内外で滑走を楽しむ。

※この記事は2013年10月号増刊『旅サライ』より転載しました。
取材・構成/関屋淳子
撮影/浜村多恵

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