文・写真/市川美奈子(海外書き人クラブ/台湾在住ライター)

台湾は日本と同様、プレートの境界に位置する島。地震や火山活動が活発で、温泉資源に恵まれている。台湾で発見されている温泉は百数か所にのぼっており、平原、高山、渓谷など、場所を問わず至る所に温泉郷がある。

その中でも台湾東部の宜蘭(イーラン/ぎらん)県は、温泉の種類が豊富なことで有名だ。特に、宜蘭県の南端にある蘇澳(スーアオ)では、台湾で唯一であり世界的にも珍しい「炭酸冷泉」を楽しむことができる。

台北駅からバスと電車で90分ほど。台湾鉄道の蘇澳駅からわずか300メートルのところに、「蘇澳冷泉公園」がある。

蘇澳冷泉公園。

「冷泉」とは、水温が25℃未満の、温泉と類似の療養効果を持つ鉱泉を指す。温泉と異なり、水温が低い点が特徴だ。

蘇澳冷泉は年間を通じて22℃を保っている低温鉱泉で、無色無臭、水質は透明。しかも、世界に数か所しか存在しないと言われている「炭酸冷泉」だ。

炭酸冷泉が存在するのは、イタリアと日本の一部、そしてここ台湾の蘇澳のみだと言われている。炭酸冷泉が存在するための条件は3つある。

まずは、二酸化炭素が地下に豊富に存在していること。

そして、水温が低く、二酸化炭素が水に溶け込める環境であること。

最後に、地下水が二酸化炭素を含んだまま湧き出せる地形条件(水圧・地質)となっていること、の3つである。

蘇澳は台湾東部の海岸沿いに位置しており、雨が多い地域だ。この地域は二酸化炭素を多く含む石灰岩が豊富にあるため、雨水は二酸化炭素を多く含んだ地下水となる。さらに蘇澳はプレートの境界に位置しており、地殻変動が活発だ。プレートの動きによって、二酸化炭素を含んだ地下水が地表に押し上げられ、湧き出す際に温度が下がる。このため、二酸化炭素が水に溶け込んだまま、炭酸冷泉として湧き出てくる。

蘇澳冷泉公園は、公園という名のとおり、広々とした敷地内に緑が広がっている。公園内は無料で入場でき、市民の憩いの場になっている。

蘇澳冷泉公園の敷地内。開放感がある。

公園内には「湯屋」という冷温泉施設があり、大浴場か個室かを選ぶことができる。2024年6月に施設がリニューアルされ、「高級湯屋」というハイクラスな個室ができた。この高級湯屋では、1つの個室内で、温泉と冷泉の両方を楽しむことができる。

前方に見える2階建ての建物が「湯屋」。

せっかくなので「高級湯屋」を体験してみることにした。入浴時間は60分で1室あたり850元(約4080円)。浴槽には湯は張られておらず、自分で浴槽に湯を張るスタイルのため、入れたての温泉・冷泉が楽しめる。

高級湯屋の個室。左側が温泉、右側が冷泉だ。

まずは温泉から。蛇口をひねると、鉄分を豊富に含んだ褐色の湯が出てきた。温度は45℃前後。少し熱めの湯をたっぷりと張って肩まで浸かると、体の芯から疲れが抜けていく。

熱めの湯が心地よい温泉。

そしていよいよ待望の冷泉へ。熱めの温泉に浸かった後だと、22℃の冷泉は非常に冷たく感じる。しかし、ゆっくりと浸かっていくと5分ほどで体に泡がついてきて、冷泉の冷たさが気にならなくなってきた。

そして不思議なことに、冷泉から上がると体の芯がじんわりと温かい。まさにこの感覚こそが、冷泉の効能なのだそうだ。

冷泉でリフレッシュしたら、再び温泉へ。温泉で体がほてってきたら、また冷泉へ。温泉と冷泉に交互に入浴していたら、あっという間に60分が経っていた。

気泡に包まれ体の芯は温まる、そんな不思議な体験ができる。

温泉に浸かる以外の楽しみ方もできる。実は蘇澳冷泉は飲用も可能だ。昔は炭酸冷泉を活かしたラムネも作られていたという。

台湾で唯一の炭酸冷泉である蘇澳冷泉。夏の温泉巡りにうってつけのこの地で、世界的にも珍しい炭酸冷泉を楽しんでみては。

最寄り駅の蘇澳駅。レトロな駅舎が旅情を掻き立てる。

蘇澳冷泉公園
台湾宜蘭県蘇澳鎮冷泉路6之4号
https://leng-quan-yuan-qu-s-fabulous-site.webflow.io/

台北駅からバスで約50分の「羅東バスターミナル」へ。台北駅から羅東バスターミナルへは、15分~20分おきにバスが出ている。羅東バスターミナルから「羅東駅」(徒歩7分)に移動し、「蘇澳駅」(台湾鉄道で約20分)へ。蘇澳駅から徒歩5分で「蘇澳冷泉公園」に到着。
大浴場は水着着用だが、個室は裸での入浴が可能だ。

文・写真/市川美奈子 (台湾在住ライター)
民間企業、外務省外郭団体などの勤務を経て、2023年4月から行政機関の職員として台湾に駐在。早稲田大学第一文学部卒。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)の会員。温泉の宝庫である台湾で、各種温泉巡りを楽しんでいる。

 

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