2025年12月20日、横浜・山下ふ頭の一角にイマーシブ・ミュージアム「THE MOVEUM YOKOHAMA by TOYOTA GROUP」(以下、THE MOVEUM YOKOHAMA)がオープンしました。すでに前回記事にてミュージアムのコンセプトや会場の全体像をレポートしましたが、今回は館内で上映されている2本のイマーシブプログラムについて詳しくご紹介します。
館内では、現在「世紀末ウィーンを旅する「『美の黄金時代』グスタフ・クリムトとエゴン・シーレ~光と影の芸術家たち~」と、山口智子さんが10年かけて集めてきた“地球の音”を体感する「LISTEN. ONE MOMENT」の2本が上映されています。両者はテーマも温度も違いながら、鑑賞者の感覚を“動かす”という一点で、きれいに呼応していました。

クリムトとシーレ――世紀末ウィーンの美を満喫
THEATER PROGRAM「ウィーン世紀末芸術『美の黄金時代』」は、20世紀への替わり目に美術の都・ウィーンを席巻した世紀末美術を、全52分の没入型イマーシブ・プログラムとして構成したものです。スポットライトが当たるのは、ウィーン世紀末に活躍した二人の芸術家。装飾的で色彩豊かな表現でウィーン分離派を率いたグスタフ・クリムトと、感情を揺さぶる生々しさで時代の実存的不安を写し取ったエゴン・シーレです。光と影の両極を象徴する2名の巨匠が手掛けた約280点が音と映像で迫るなか、約100年前のウィーン世紀末への時間旅行が楽しめました。

まず前半約40分がクリムトのパートです。クリムトが描いた生命、愛、死といった主要なテーマを、乱舞する色彩の世界で編み直した圧巻の構成となっていました。ヴェートーヴェンの荘厳な交響曲が空間に響くなか、直感と感情に訴えるクリムトの世界が広がり、スケール感のある没入体験が楽しめました。

続くシーレのパートでは、華麗な色彩世界から一転して、動乱の世紀末を思い起こさせる表現主義の世界へと切り替わります。クリムトに連なる世界観を継承しながらも、独特の緊張と孤独をたたえたシーレの表現は、鑑賞者の内側にざらりとした感触を残します。展開される色彩や音楽はクリムトのパートと大きく異なり、両者の個性の違いが際立つような演出が楽しめました。


特筆したいのは、イマーシブシアターとしては国内最大級となる広大な映像空間です。もともと輸出入貨物の保管や検査などに使われていた倉庫です。その約1800㎡の巨大な内部空間を、ほぼそのままのかたちで活用。逆ホームベース型の壁面を巧みに活用しながら、迫力の映像が空間全体に広がっていました。

THE MOVEUM YOKOHAMAがユニークなのは、2階のロフト部分も含めて、空間の隅々にまで没入空間が行き渡っていることです。時間があれば、ぜひ階段を上ってみてください。場所によって様々に作品との距離感が変わり、移動するごとに鑑賞体験が変化します。
また、音響設計の完成度も見事でした。会場内のどこへ移動しても、一切ハウリングすることなく音がクリアに届きます。耳が疲れず、心地よく音と光の空間に没入することができました。「大がかりなプロジェクションとサウンドスケープが空間を変貌させ、引きずり込むような体験をつくる」というプレスリリースの言葉通りの体験が味わえました。


また、体験を“個”へ近づける装置として密閉された「ミラールーム」も用意されています。鏡面によって、よりパーソナルな没入を楽しめるようになっています。こちらも忘れずにチェックしてみてください。

山口智子「LISTEN. ONE MOMENT」――境界を越える「音」のタイムカプセル

続いては隣の「THE MOVEUM STUDIO」に移動して、STUDIO PROGRAM第一期として上映される「LISTEN. ONE MOMENT」もみてみましょう。
このプログラムは、俳優・山口智子さんがライフワークとして続けてきたプロジェクト「LISTEN.」の最新作。山口さんは、2010年から10年をかけて約26カ国を巡り、世界中の音楽文化を訪ねては映像ライブラリーに収め、未来へ紡ぐ『音』のタイムカプセルとして短編作品や映画を制作してきました。
今回上映される「LISTEN. ONE MOMENT」では、全7組のアーティストが登場。騎馬民族のリズムから、吟遊詩人のメロディ、歌の宴、魂のダンスなど、山口さんが世界十数カ国を訪問して録音・撮影を行った映像から厳選されたプログラムが披露されています。




壁も国境も軽々と越えていく音の世界

筆者が取材させていただいた内覧会当日には、山口さんも来場。「LISTEN.」は「目を閉じて耳を澄まして、心を開いて世界に耳を傾ける」ことがテーマと語る山口さんは、現地で撮影する際も、音に没入するためにほのかな暗闇や陰影を大切にしてきました。その点で、四方を壁に囲まれ、完全な「闇」を実現したTHE MOVEUM STUDIOの密閉空間は、音に集中し、耳を澄ますためには非常に適しているのではないか、とも話してくれました。

また、「境とか境界線とか国境とか、全てそういう分断する壁を乗り越えて、取っ払いたい。そのシンボルとなるものこそが、音なんです。音は壁も国境も越えて行き交い、素敵なもの同士が融合して新たな美しさを築いてきました。だからこそ、この“今と古の融合”の空間で共に立ち上げる意味があるんです。ぜひ、地球を丸ごと体感していただきたいです。「LISTEN.」を体験した方が、世界にあふれる未知の宝の山を体感するために、足を踏み出して旅に出る、そのきっかけの第一歩になれば嬉しいです」と締めくくってくれました。
「クリムトとシーレ」が世紀末ウィーンの光と影を再現する一方、「LISTEN.」は耳を澄まし、地球が奏でてきた音の記憶を身体全体に刻み込んでいく――。THE MOVEUM YOKOHAMAのこけら落としにふさわしい、充実したイマーシブプログラムとなっていました。新たな芸術体験を楽しんでみたい方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
THE MOVEUM YOKOHAMA 基本情報

施設名称:THE MOVEUM YOKOHAMA by TOYOTA GROUP
開催期間:2025年12月20日(土)~2026年3月31日(火)
営業時間:日曜~木曜10:30~19:30、金・土・祝前日10:30~20:30
会 場:神奈川県横浜市山下ふ頭4号上屋(神奈川県横浜市中区山下町279-9)
入場料 :一般 オンライン3,000円、当日会場3,800円
大・高・専門学校生 オンライン2,000円、当日会場2,700円
小・中学生 オンライン1,200円、当日会場1,900円
※未就学児無料
公式HP:https://global.toyota/info/themoveum/
文・撮影/齋藤久嗣





