文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)
巨匠映画監督、フランシスコ・フォード・コッポラは多作である。『ゴッドファーザー』シリーズや『地獄の黙示録』といった映画史上に燦然と輝く傑作の他にも、意外とも思えるような作品も少なくない。1983年に公開された『アウトサイダー』(原題:The Outsiders)もそのひとつだ。
この映画にはトム・クルーズ、パトリック・スウェイジ、ラルフ・マッチオ、ダイアン・レイン、マット・ディロン、トーマス・ハウエル、レイフ・ギャレットといった当時の若手スター俳優たちが勢ぞろいして話題を呼んだ。誤差を承知で例えるならば、まるで黒澤明がアイドル映画を監督したような違和感がある。
原作著者のS・E・ヒントンは15歳から16歳のときに書いた同名小説で1967年にデビューし、10代で突然ベストセラー作家になった。コッポラはこの天才少女による原作のストーリーを忠実に踏襲し、きわめてストレートな青春映画を作った。その意図はよく分からない。
公開当時から、「深みがない」とか「子どもっぽい」との批判があったが、それもそのはずだ。元々、子どもが書いたストーリーなのである。だからこそと言うべきか、当時の少年少女たちからは熱烈な支持を受けた。
『アウトサイダー』は原作小説も映画もヒントンの出身地オクラホマ州タルサが舞台である。映画の撮影もタルサで行われた。主人公3兄弟が住んでいた家屋が、そのままの外観を保ち、現在は博物館になっている。
両親を事故で亡くした貧しい兄弟たちが住む家という設定なので、もちろん豪邸などではない。平屋建ての小さな家だ。周辺も経済的には中流以下のように見える住宅地で、タルサのダウンタウンから徒歩で20分ほどの距離にある。
内部の間取りも映画そのままだ。玄関を入ると小さな居間があり、その奥にキッチンと2つのベッドルームがある。置いてある家具も映画で見覚えがある古いものだ。壁や棚には撮影に使われた小道具や衣装、そして写真や本などが数多く飾られている。
訪れる人の年齢層は高い。少なくとも、筆者が訪問したときは、その場にいた全員が少なくとも50代以上に見えた。80年代に青春を過ごし、この映画に夢中になったか、原作を繰り返し読んだか、あるいはその両方をした人たちだろう。筆者もそのひとりである。
敷地内には元はガレージだったと思われるもうひとつの小振りな建物があり、そちらはギフトショップになっている。中にはTシャツやコーヒーカップなどの土産物がぎっしりと並んでいる。訪問客は懐かしさに声を上げ、思わずたくさんの買い物をしてしまう。店を出るときには、店員が作中の名セリフ「Stay Gold」と声をかけてくれる。
2024年12月現在、ニューヨークのブロードウェイで『アウトサイダー』のミュージカルが上演中である。第77回トニー賞の「ベスト・ミュージカル」賞を受賞したこの作品は2025年秋から全米ツアーが開始される予定で、その皮切りはタルサになることも決まっている。原作小説が刊行されてから58年、映画が公開されてからも42年、タルサに『アウトサイダー』が帰ってくるというわけだ。
『アウトサイダー』ミュージカル公式ウェブサイト:https://outsidersmusical.com/
ヒントンは『アウトサイダー』の後も作風の似た青春小説を何冊か書き、それらもすべて1960年代のタルサを舞台にしていた。76歳になったはずの現在もタルサに在住しているらしい。
いわば地元出身の有名人なのだが、皮肉なことにヒントンの著作はオクラホマ州内の学校では広く読まれているとは言い難い。少年たちがやたらとタバコをふかし、ナイフで喧嘩をする場面もある『アウトサイダー』の描写は教育上不適切だという理由からか、オクラホマ州の禁書リストに入っているからだ。保守的な土地柄なのである。
タルサの人口は約40万人。同じような規模を持つ栃木県宇都宮市の姉妹都市でもある。市中心部には長距離バス『グレイハウンド』のターミナルがあり、空港もすぐ近くにあるので、アメリカの他主要都市からの行き来はさほど難しくない。市内には歴史的建造物が多く、街歩きも楽しい。
『The Outsiders House Museum』(アウトサイダーズ・ハウス博物館)
731 N St Louis Ave, Tulsa, OK 74106
https://www.theoutsidershouse.com/
文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。