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文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

Desert sand-verbena(学術名:Abronia villosa)

カリフォルニア州には地名に砂漠(Desert)や砂丘(Dune)がついた土地がいくつかあります。ロサンゼルスやサンフランシスコのような太平洋に面した都市部の気候は快適そのものなのですが、そこから内陸に向かって少し車を走らせるだけで、西部劇の舞台に出てくるような過酷で荒涼とした不毛の大地が続くのです。

乾ききった砂と岩石に覆われた砂漠の景観で最も有名な国立公園はカリフォルニア州とネバダ州の州境に近い『デス・バレー』でしょう。広大なモハーヴェ砂漠の一角に位置し、世界最高気温(56.7 °C)を記録したこともあります。何か所かあるオアシス以外で植物を見ることはありません。

デス・バレー国立公園

ところが、そのデス・バレーに野生の花が一斉に咲く、『スーパーブルーム』と呼ばれる現象が10年か15年に1回くらいの頻度で起こります。降水量や気温など、いくつかの条件が揃わないといけないそうで、最後にデス・バレーでそれが起きたのは2016年のことです。そのときは大きな話題を呼び、大勢の訪問客が押し寄せました。

カリフォルニア州では今年の冬は平年よりかなり雨が多く、州内の様々な土地で野生の花が咲いています。当然のようにスーパーブルームの再現を期待する声が高まっています。しかし、残念ながら今年もデス・バレーには花は咲かないだろうというのが現在での予想です。

それでも、他には花が咲いている砂漠もあるというニュースを地元メディアやソーシャルメディアで見聞きするようにはなりました。そのうちのひとつがカリフォルニア州サンディエゴ郡にあるAnza-Borrego Desert State Parkという州立公園です。直訳すると「アンザ・ボレゴ砂漠州立公園」になるでしょう。

砂漠に咲く花を求めて歩くハイキング

アンザ・ボレゴ砂漠州立公園はサンディエゴから東へ100キロほど内陸に入った位置にあります。ロサンゼルス郊外に住む私の家からでも2時間半ほどのドライブで到着することができます。変な言い方ですが、都会からごく近場にある砂漠なのです。

それでも、砂漠は砂漠です。近づくにつれて、その非日常的な風景には圧倒されることになります。

アンザ・ボレゴ砂漠州立公園遠景

私が3月12日にここを訪れたとき、ビジターセンターには「花はどこに行けば見られるの?」と職員に尋ねる観光客が何人もいました。職員もその質問に慣れていたのでしょう。花を見るためにおすすめのスポットだといういくつかの地点に印をつけた地図を配っていました。

私もその地図を貰い、あるトレイルを選んで歩き始めました。全長約8キロで、道もさほど険しくなく、ハイキング初心者向けのルート、ということでした。

砂漠のハイキングには日影もなければ、視線を遮るものもありません。日本ではあまり見ることがない種類の広大な風景が目の前に広がります。いつもより多くの人が訪れているとは言え、いざ歩き始めると、ほとんど人の姿を見ることはありませんでした。

そして期待通り、普段は岩石と灌木くらいしか見ることがないだろう荒野にいくつかの種類の花が咲いていました。

Brittlebush(学術名:Encelia farinosa)
Desert Chia(学術名:Salvia columbariae)
サボテンに絡みつくように咲いていたBlue Curls(学術名:Trichostema)

注:画像キャプションは花の名前を写真から調べることができるウェブサイト、https://identify.plantnet.org/ を利用しました。

一面の花が満開になっているというわけではありません。スーパーブルームという言葉から連想される派手さや華やかさはなく、どちらかと言えばひっそりとか健気に咲いているという表現が似つかわしい風情です。

花とは別に、このトレイルには野生のパームツリーが群生している稀少な場所があり、そこがハイライトになっていました。都会で見慣れた背の高いひょろひょろとした木とは違い、がっしりとした印象を受けました。

野生のパームツリー

この砂漠に花が咲いたのは2019年以来4年振りとのことです。次はいつになるのか、それは誰にも分かりません。母なる自然の恵みと呼ぶにはいささか厳し過ぎるようです。せめてこの瞬間を楽しもうと思いつつ歩きました。

アンザ・ボレゴ砂漠州立公園公式ウェブサイト:https://www.sandiego.org/members/parks-gardens/anzaborrego-desert-state-park.aspx

文・角谷剛
日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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