文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)
少し以前のことになるが、米国の大手経済誌『フォーブス』が「2023年におすすめする世界の旅行地50選」という特集記事(https://www.forbes.com/advisor/credit-cards/travel-rewards/best-places-to-travel-2023/ )を公開した(タイトルは筆者訳)。同誌が毎年選出する恒例記事である。新型コロナウイルスのパンデミックがようやく収束に向かい、人々の旅行熱が高まってきていることもあって、本年度版はいつもより注目度が高かったのではないだろうか。
記事は世界中から選んだ50の土地をアルファベット順にアルメニア(Armenia)からバンクーバー島(Vancouver Island)まで並べて紹介しているが、残念ながら日本の土地はひとつも入っていない。
その50選にカリフォルニア州エンシニタス(Encinitas)という聞き慣れない街の名がある。カリフォルニア内でさえけっして有名な地名ではなく、正確な場所を知っている人は少ないだろう。フォーブス誌に選出されたことは意外でしかなく、地元のニュースでも取り上げられたほどだ。
都会の喧騒から離れた海沿いの静かな街
エンシニタスの地名はカリフォルニア州内の多くの都市と同じように、スペイン語から来ている。「小さなオークの木々」という意味だ。サンディエゴ郡の北部に位置し、太平洋に面した小さな街である。市の公式ウェブサイト(https://www.encinitasca.gov/ )によれば、人口は約6万人。熊本県天草市と姉妹都市になっていることからも、その規模と雰囲気が想像できるのではないだろうか。
筆者は自宅から約100キロ離れたこの街を何度か訪れたことがある。都会の喧騒からは離れているが、過疎地というほどでもなく、ほどよく落ち着いた雰囲気の静かな街という印象を持っている。
サーファーが集まるグランド・ビュー・サーフ・ビーチと海に落ちるサンセットを眺めるのに最適のムーンライト・ビーチが観光の中心ではあるが、どちらもカリフォルニア州内の高名なビーチとは異なり、広い砂浜は混雑とは無縁だ。
ビーチに近いメインストリートには洗練されたレストランやギャラリーなどが並ぶ。小規模だが個性的な店が中心で、派手さは感じない。高級ブランド店や豪華なレストランはあまり見ない代わりに、ファストフードのチェーン店もない。穏やかな滞在型の旅行を好む人には向いている街だと思う。
『トップガン』の撮影スポットで食べるパイの味
エンシニタスから太平洋岸に沿って20キロほど北上すると、オーシャンサイドという名のやや賑やかな街がある。サンディエゴ郡を南北に繋ぐローカル鉄道『コースター』の始発駅だ。無人駅のエンシニタスからは30分ほどで到着する。
このオーシャンサイドには映画『トップガン』(1986年)でロケ地に使われた、通称「トップガン・ハウス」がある。トム・クルーズ演ずるピート・“マーベリック”・ミッチェル大尉が恋人となったインストラクターの家を訪ねたシーンで使われたバンガロー風の家屋が、ほぼそのままの外観を保ち、パイの店として営業しているのだ。
正式名称であるHIGH-pie(https://www.famoushighpie.com/ )はオーシャンサイドのビーチに面した通りにある店だ。オーシャンサイド駅から歩いても数分しかかからない。店の前にはミッチェル大尉が乗っていたオートバイ『カワサキ・ニンジャ』のレプリカが置かれ、さほど広くない店内の壁には映画のシーンや出演者たちの写真、そしてTシャツやマグカップといった記念グッズが数多く陳列されている。
甘いものが苦手の筆者にはこの店のパイの味を正当に評価することはできないが、『トップガン』に胸を躍らせた記憶を持つ人にとっては訪れる価値はある建物だと断言できる。
エンシニタス観光センター
住所:535 Encinitas Blvd Suite 116 | Encinitas, CA
電話:(760) 753 6228
公式ウェブサイト: https://www.encinitasvisitorscenter.com/
文・角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。