文・アンヌ遙香
これまでサライを片手に北は東北、南は九州まで様々な仏像を拝観して歩いてきた皆様へ。今、時代は北海道の仏像です。北海道の仏像がキテいます。
生まれも育ちも北海道札幌市、18歳で上京し日本美術史を専攻してきた私は、これまで本州、四国、九州で過去に様々な仏像を拝観して参りました。1番愛して止まないのは、京都東寺の帝釈天さま。南山城は海住山寺の十一面観音も好き。臼杵の石仏も忘れられない。
これまでオーソドックスな仏像道を歩んできた私ですが、故郷北海道に帰ってみて、度肝を抜かれました。北海道の仏像、アツイじゃないの! ということに気づいたのです。
広大な大地を生かしたダイナミックな大仏はもちろんのこと、プリミティブで素人風な味のある可愛らしい善哉童子がいるかと思いきや、重要文化財のとんでもなく素晴らしい円空仏も存在する。実はサライ編集部の方ですら、「北海道の仏像…これまで手薄ですね」とはっきり仰る未知の世界。皆様、私と一緒に新たな世界を覗いていきませんか。
記念すべき第一回は札幌市滝野霊園の頭大仏。実は現在知る人ぞ知る名観光地となっています。
地下鉄南北線終点の真駒内駅からバスに揺られること20分ほど。
どんどんどんどんバスは濃い緑に包まれた山道へ。重厚なヨーロッパの城壁を思わせる石造りの正門を入ったその先にはなんと33体もの巨大モアイ像が!!
そして視線の先にはなんとストーンヘンジまで。
滝野霊園は宗教や国籍を問わず、どんな人でも利用可能という平和そのものなコンセプトの公園霊園。とにかく広い。周囲360度見回しても全てが山山山。視線を遮るものがない。ダイナミックな北海道ならではの土地の広さにまず圧倒され、そして……目に入るのは、古墳のようななだらかな丘。
その丘の上にはニョッキリドドン! と大仏様の頭部分のみがとびだしているという想像を絶するミラクル空間が広がっているのです。この大仏様、もともとは平地に鎮座していたということなのですが、その頭部より下をラベンダーの丘で覆い隠してしまおう! と考えついたのが、なんとあの世界的建築家の安藤忠雄先生。
ラベンダーの丘に隠された荘厳な大仏殿
丘の上から頭が出ているというスタイルで私たちを迎える頭大仏様ですが、実はその丘の内側というのがれっきとした大仏殿になっており、お体部分が大仏殿の中に入らないと拝見できないという形になっているのです。大仏殿そのものは、コンクリート打ちっぱなしのトンネルのような形状。その入り口は、私たちの生活空間と大仏様の世界を遮断し、かつ向こうの世界へと誘うかのような美しい水路が。
取材日は風が比較的強かったため、水面がざわめき、鱗状の美しい形をなしていました。その水路を越え、まっすぐ薄暗いトンネルを進んだ、まるで暗闇に包まれた胎内のような空間を抜けた先に……天空から光を受けて輝く大仏様が待ち受けているのです。
この神々しさよ!
その大仏様を正面に臨むようにデッキチェアがいくつも並んでいます。チェアに座ってひたすら大仏様を眺めていると、ラベンダーの香りが。どうやらお線香がラベンダーの香りになっているよう。それがなんとも心地よくリラックス効果を誘います。
また拝観者が自由に鳴らすことができる鐘も、高い音の物からから低い音まで様々な種類があり、ガーン、ゴーン、コンっとまるで海外のお寺に来ているかのようなエキゾチックな空間を演出するのです。私は常々、仏像というのは観るものではなく、浴びるものであるとの持論を展開してきましたが、まさしく仏像が放つオーラそのものを全身全霊でデッキチェアで浴びることができる、仏像好き、及び巨大建築物好きには心からたまらない空間。
インバウンドの海外からの観光客の方が本当に多いのですが、この何にも変えがたい空間の凄さは多くの人に知ってほしいところ。モアイ像を模したカレーや、ラベンダーのソフトクリーム、頭大仏様グッズも充実しており、とにかく拝観者へのおもてなしに抜かりがない。いつまででもとどまっていたい、素晴らしい仏像体験ができます。
緑の丘の向こうに見え隠れする頭大仏ですが、冬の時期にはすっぽりと雪に覆われるそう。これは雪が積もった時期にもう一度お目にかからなければならないと今からワクワクしている私です。
取材協力:真駒内滝野霊園 https://www.takinoreien.com/
アンヌ 遙香(あんぬ・はるか)
元TBSアナウンサー(小林悠名義)。現在は札幌中心にフリーアナウンサー、文筆業、美容やアロマテラピー、話し方講座などのスクール講師として活動。出演番組:HBC北海道放送の情報番組「今日ドキッ!」のコメンテーター等。
Instagram:@aromatherapyanne