九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。

群馬県出身。1916年に台湾に渡り、台湾総督府勤務。1942年から台南市長。終戦後は中華民国台南州接管委員会のアドバイザーとなる。引き揚げ後は国際基督教大学(ICU)の設立に奔走した。
台湾の伝統文化を尊重し史跡の修復を進めた市長
羽鳥又男は現在も台南の人々に慕われる「名市長」である。戦時下の1942年に台南市長となった羽鳥は、台湾の伝統文化を重んじ、日台の分け隔てなく市民に接した人柄で知られる。
台湾に渡った後、羽鳥は台湾総督府中央研究所の職員となり、その後、総督官房秘書課に転任。そして、人事課長を経て、台南市長となった。総督府での勤務時代、第18代台湾総督・長谷川清は羽鳥に絶大な信頼を置いていた。羽鳥を台南市長に任命したのも長谷川だった。

史跡や文物の保護に邁進
羽鳥の功績を挙げるなら、史跡の保存や修復を熱心に行なったことだ。特に孔子廟と赤崁楼の修復は広く知られている。
孔子廟は昭和期の皇民化運動に伴い、屋内に日本式の神棚が置かれたりしたが、羽鳥はこれらの撤去を命じ、建物の修復を指示した。

赤崁楼の修復は、巨額の費用を要するため、市長の裁量では実施が難しかった。そこで羽鳥は一策を講じ、懇意だった長谷川総督にこの件を持ちかけた。その際、「民衆の心を掌握できなければ、信頼される政治はできない」と説いたと伝わる。現在も敷地内に修復の完成を記念した石碑が残り、文昌閣の中にも碑文が残る。

開館時間:8時30分~17時30分(文昌閣)
定休日:無休

また、開元寺には台湾最古の古鐘が残る。戦時中の金属供出令で、古鐘もその対象となったが、羽鳥の指示で免れた。
戦時体制にありながら文化を尊重した市長。その生き方は世代を超え、語り継がれている。


開元寺
住所:北区北園街89号
電話:06・2374035
開館時間:4時~19時
定休日:無休
料金:無料
解説 片倉佳史さん(台湾在住作家・54歳)

※この記事は『サライ』本誌2024年1月号別冊付録より転載しました。
【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する


