文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/海外移住ライター)

ドレスデンから約1時間の鉄旅。エコの村、シュミルカへ。

国連が定めた気候目標到達度を示すSDGs指数が2023年に6位から4位へ躍進したドイツ。そんな環境先進国で、自然の中で過ごす休暇がますます注目を集めている。絶景で知られる国立公園ザクセン・スイスにあるエコの村でサステナブルな旅を体験してきた。

ドイツなのにスイス? 奇岩の絶景ザクセン・スイス

ザクセン・スイス国立公園。奇岩の間に架かるバスタイ橋は世界屈指の絶景スポット。

ドイツ東部ザクセン州の観光都市、ドレスデンからエルべ川沿いを走るローカル鉄道に乗ってチェコ方面へ向かうこと約40分。車窓から雄大な景色を眺めていると、突然切り立った岩山が目に飛び込んでくる。このあたり一帯はザクセン・スイスと呼ばれ、チェコとの2か国にまたがる広大な国立公園となっている。ハイキングやクライミング、カヤックなど様々なアクティビティが楽しめる人気の保養地だ。

一番の魅力は、なんといってもワイルドなパノラマ。白亜紀を起源とする浸食と隆起でできた奇岩と断崖絶壁が織りなす光景は、幻想的でまるで神話の世界。ちなみに、ドイツなのになぜスイスという名前なのかというと、18世紀にこの地を訪れたスイス人が故郷を思わせる風景に感嘆し、「ザクセンのスイス」と呼んだことに由来する。スイス人ならずとも、圧倒的な絶景を前に誰もが息をのむことだろう。

過疎集落が「ザクセン州で最も美しい」エコの村として再生

エルべ川沿いのチェコとの国境に位置するシュミルカ。対岸の鉄道駅には船で渡る。

その村は、ザクセン・スイスのチェコとの国境近くに、ひっそりとたたずんでいた。人口100人にも満たないこの小さな集落が、近年「エコの村」として注目を浴び、隠れ家的な旅行先として人気を集めているシュミルカだ。

17世紀の水車小屋は修復されて今も現役。

長い間過疎化していた集落が行楽地としてよみがえるきっかけを作ったのは、たびたびザクセン・スイスを訪れていたスヴェン・エリック・ヒッツァー氏。ヒッツァー氏は使われていなかった古い家や水車小屋などを徐々に取得しながら修復し、再生させていった。やがてそれは村全体のエコ・プロジェクトに繋がっていく。かつて打ち捨てられた村は、2017年には「ザクセン州で最も美しい村」の称号を得るまでになった。

100%ビオの村で、伝統製法のパンやビールを味わう

環境や健康に優しい村づくりに取り組むシュミルカ。集落の中心となるテラスは憩いの場。

村全体がビオ認定を受けているシュミルカのモットーは、「100%ビオ(オーガニック)」。ビオは食品にとどまらず、州で最初に認定された環境に優しいビオ・ホテルをはじめ、グリーンエネルギーの活用など、多様な環境保全活動が行われている。

昔ながらの製法で焼かれるパン。近年注目される栄養価が高いスペルト小麦などを使用。

ビオとともに取り組んでいるのが、伝統文化の保全活動。長い間放置されていた17世紀に建てられた水車小屋は、修復を経てよみがえり、村のシンボルとなった。水車を利用して挽いた粉を使い、昔ながらの薪オーブンで焼かれたパンは、かめばかむほど味わい深い。向かいの醸造所で造られる、無濾過・無殺菌のクラフトビールとの相性も抜群だ。

レンズ豆と野菜がゴロゴロ入った「食べる」スープ。燻製ソーセージを添えてボリューム満点。

村のカフェやレストランでは、伝統的な製法で手間暇かけて作られたビールやパンとともに、地産のビオ食材を使った料理を味わうことができる。訪れた日は雪が舞う寒い日だったが、カフェでいただいたグリューワイン(スパイス入りのホットワイン)がことさらおいしく、心身ともにほかほかに温まった。

白ワインベースのグリューワインはレモン風味のすっきりした味わい。豪快にビアジョッキ入り。

ビールの露天風呂も! 四季折々のユニークなイベント

寒い季節にも楽しいイベントがたくさん。村の人たちとの交流も良い思い出になりそう。

シュミルカでは、年間を通して旅行者のためのイベントが用意されている。粉挽き水車やビール醸造所の見学ツアー、ザクセン・スイスのハイキングやボートツアー、コンサート、展望サウナ、ヨガ、ハーブのワークショップなど、エコ村ならではの様々な体験が楽しめるのも魅力だ。

ドイツの田舎で露天風呂。なかなかできない貴重な体験。

冬の間は「Winterdorf(冬の村)」(※)と題し、ランタンの灯りのなかでグリューワインやダークビアが飲めたり、薪で焚く木製の露天風呂体験などユニークなプログラムが目白押し。なんとビールの露天風呂に入れる日もあるそうで、個人的にとても気になっている。

ビオやサステナブルと聞くとなんだか難しく感じてしまう人もいるかもしれないが、ここでは堅苦しさは少しも感じられない。シュミルカの公式ホームページには次のように記されている。

 「ビオとは妥協する必要があるという意味ではなく、環境、他の人々、そして自分の体と調和して持続可能な方法で楽しむことを意味します。目標はあなたが人生を楽しみ、幸せになり、気分が良くなることです」

時が止まったような静かなカフェ。ビールがしみる。

シュミルカはあっという間に一周できてしまうほど小さな村で、雪の日だったこともあり、できることは限られていたけれど。ほとんどの時間をカフェでぼんやり過ごしながら、私は確かな幸せを感じていた。

* * *

「自然は国境を知りません」……ドイツとチェコの二か国にまたがるザクセン・スイス国立公園の案内にあった言葉がずっと心に残っている。

いつか暖かい季節に、シュミルカのビオ・ホテルに滞在して森の中をチェコまで歩いてみたい。

ハイキングの後にのむビールは、どんなにおいしいことだろう。

静かな夜の星空は、どんなに美しいことだろう。

未来の楽しみをお土産に、小さな隠れ里を後にした。

(※)Winterdorf : 2024年の開催期間は3月16日まで。プログラム詳細はシュミルカのホームページで。

・シュミルカ https://www.schmilka.de/

・ザクセン・スイス国立公園 https://www.saechsische-schweiz.de/en/

文・写真/坪井由美子 ライター&リポーター。ドイツ在住10数年を経て、世界各地でプチ移住や語学留学をしながら現地のライフスタイルや文化、グルメについて様々なメディアで発信中。著書『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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