文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/海外移住ライター)
ドイツが一番輝く季節、クリスマスシーズンがやってきた。毎年この時期になると各地のクリスマスマーケットめぐりを恒例行事としている筆者が、今年最初に訪れたのは世界遺産の古都レーゲンスブルク。お城で開かれるロマンチックなマーケットの様子をお届けしたい。
本物の中世が残る奇跡の町を歩く
南ドイツの玄関口ミュンヘンから列車で約1時間。ドナウ河畔に広がるレーゲンスブルクは、約2000年という気の遠くなるような長い歴史を持つ町だ。古代ローマ時代から交通の要所として栄え、中世には交易で繁栄。2度の世界大戦の戦火を奇跡的に免れたために古代ローマ時代からゴシック様式に至る1000以上もの歴史的建築物が現存しており、旧市街とその対岸の地区は「レーゲンスブルクの旧市街とシュタットアムホーフ」としてユネスコ世界遺産に登録されている。
「ドイツ中世の奇跡」と称される旧市街の路地を歩けば、まるで中世にタイムトリップした気分。これが映画のセットではなくて実在する町なのだから、まさに奇跡というしかない。レーゲンスブルクにはいたるところに「最古の○○」があるので、探しながら散策するのも楽しい。ドイツで最初の議会が開かれた旧市庁舎の前には、議会でお菓子を提供したというドイツ最古のカフェがある。また、ドイツ最古の石橋のたもとにあるドイツ最古のソーセージ屋さんでは、焼き立てのソーセージがいただける。さらに、映画『アリス・イン・ワンダーランド』でジョニー・デップの帽子を手掛けたドイツ最古の帽子屋さんで、ひとつ仕立ててもらうのも良い記念になりそうだ。
郵便王タクシス家の本拠地
レーゲンスブルクは世界的に有名な貴族、トゥルン・ウント・タクシス家の本拠地としても知られている。その昔、タクシス家に巨額の富をもたらしたきっかけは「郵便」だった。神聖ローマ皇帝から領内における郵便事業の独占権利を与えられたタクシス家は、ヨーロッパ各地を結ぶ郵便システムを確立し発展させ、財を成した。
レーゲンスブルク中央駅の近くから続く広大な敷地内には、かつてベネディクト会聖エメラム修道院だった建物を改装した宮殿「トゥルン・ウント・タクシス家の城(Thurn & Taxis)」が建ち、代々の子孫が受け継いでいる。城には現在も伯爵家が暮らしており、ガイドツアーでのみ内部を見学することが可能。ロンドンのバッキンガム宮殿よりも広いとされる城館内には500もの部屋があり、豪華絢爛な大広間「舞踏の間」をはじめ、バロックやロココ様式の装飾が施された部屋が次々と現れて当時の繁栄ぶりがうかがえる。写真撮影禁止につきお見せできないのが残念だが、建築的にも歴史的にも見ごたえたっぷり。池田理代子さん作の漫画『オルフェウスの窓』の舞台にもなっており、聖地巡礼に訪れる往年のファンも少なくない。
トゥルン&タクシス城のクリスマスマーケット
レーゲンスブルクでは4か所でクリスマスマーケットが開かれる。それぞれに魅力があるが、一番人気はなんといってもトゥルン&タクシス城のクリスマスマーケット。ふだんはガイドツアーでしか入れないお城の庭園を舞台に開かれる「ロマンチック・クリスマスマーケット」は、その名のとおりロマンチックなことにかけてはヨーロッパでも10指に入るほどで、国内外からたくさんの人々がやってくる人気イベントだ。2023年は初日のまだ明るい時間にはりきって訪れたところ、すでに多くの人で大賑わい。そこでは、入場料を払ってでも行きたいと思わせる、唯一無二のクリスマスマーケットが開かれていた。
お城のまわりに伝統的な木の屋台が並ぶ様子はなんとも優雅で幻想的。グリューワイン(ホットワイン)や焼きソーセージ、焼きアーモンドといったクリスマスマーケットに欠かせないグルメはもちろん、クリスマス飾りや手工芸品などセンスの良い雑貨類も多く、心がうきうきしてくる。他では見かけない個性的な屋台や、木工品やフェルト雑貨など、職人から直接作品を購入できる屋台が多いのもこのマーケットならではの魅力だ。
お城の中庭に入ってみると、中央に大きなクリスマスツリーが立ちロマンチックなムードに包まれていた。
たき火のまわりにはグリューワインを片手に語らう人々が集まり、どの顔も喜びに満ちている。この光景こそクリスマスマーケットの醍醐味。人々が醸し出す温かい雰囲気が、寒ければ寒いほど心にしみいる。これがあるからドイツのクリスマスマーケットめぐりはやめられない。今年も会期が終わるまで何度も足を運ぶだろう。
皆様もどうぞ素敵なクリスマスシーズンをお過ごしください。
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トゥルン&タクシス城のクリスマスマーケット ※2023年は12月23日まで開催 https://www.wm-tut.de/start-page
レーゲンスブルク観光局 https://tourismus.regensburg.de/
文・写真/坪井由美子
ライター&リポーター。ドイツ在住10数年を経て、世界各地でプチ移住や語学留学をしながら現地のライフスタイルや文化、グルメについて様々なメディアで発信中。著書『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。