九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。

自強号と普通列車に揺られて鉄道の名所を訪ねる

台北から古都・台南への移動は、日本の新幹線にあたる高鐵(台湾高速鐵路)に乗るのが一般的だ。最短で1時間30分ほどで着く。ただ、車窓の風景を楽しんだり、気になる場所に立ち寄って旅を楽しむならば、在来線に乗ってみてはいかがだろか。

台湾では、在来線にあたる台鐵(台湾鐵路管理局線)の路線に、特急ほか長距離列車が走っている。新幹線が開業すると並行する在来線が第三セクターに移管されるなどして寸断され、乗り継ぎが不便になることが多い日本とは違う。

台北駅は広大な吹き抜けの空間をもつ巨大な駅だ。1階できっぷと駅弁を買い、地下2階の乗り場から乗車。きっぷは自動販売機でクレジットカードで購入できるが、窓口で購入する際は、言葉が不安なら行き先のメモを見せるとよい。漢字の国はありがたい。

広大な吹き抜けの空間がある台北駅。弁当の販売店もある。乗車ホームは高鐵(新幹線)、台鐵(在来線)とも地下2階。
「香烤小巻西式燉飯便当」を台北駅で購入。ヤリイカの丸焼きや野菜炒め、錦糸玉子などがパエリア風の飯にのる。150元。

古跡となった鉄道施設を堪能

まず目指したいのは台湾中部の台中駅である。台北駅から特急を意味する「自強号」で約2時間。ここでは日本統治時代の1917年に建設された台中駅の旧駅舎が国定の古跡として整備、保存されている。

日本の特急列車に相当する「自強号」。台中駅にて。きっぷは窓口のほか自動販売機でも買える。
写真/河口信雄(アフロ)

これは東京駅を手がけた建築家・辰野金吾のデザインで、当時の台湾総督府鉄道局の設計。赤レンガと白い花崗岩を組み合わせた「辰野式」と称される旧駅舎は、時計棟のレリーフや回廊の柱頭などの装飾が見事でしばし見入る。旧駅舎の裏手、かつてのホームに立ち入ることができ、そこから線路は「緑空鐵道1908」として1・6kmにわたる遊歩道が整備されている。「1908」とは台湾の鉄道の大動脈たる縦貫線が全通した年である。

1917年に建設された台中駅の旧駅舎。東京駅や日本銀行本店本館を手がけた辰野金吾によるデザインが目を引く。
炊き込みご飯に「排骨便当」(下写真)などの具をのせた「懷舊排骨菜飯便当」。100元。
揚げてタレに漬けた骨付き豚ばら肉が白米にのる「排骨便当」。80元。(台中駅)。

台中から乗った「区間列車」(普通列車)では、自転車をそのまま持ち込む女性がいた。乗車料金の半額で自転車の持ち込みが可能とのこと。行動範囲が広がり便利そうだ。

普通列車の車内にて。自転車を持ち込む女性は、露天で商売をするため移動中だと話す。自転車大国の台湾では日常の光景だ。
高鐵台中駅との乗換駅として開業した台鐵新烏日駅に停まる普通列車。日本のローカル線のような乗り心地で、比較的揺れが大きい。

台中から約20分の彰化駅に扇形車庫を見学するため降り立った。この車庫は中央の転車台を囲むように機関車の車庫が配置されている。1922年に建設され、台湾で唯一、今も現役という貴重な施設だ。

入口の案内所で住所と氏名を記入し、パスポートを提示すると手続きは完了。数々の電気機関車やディーゼル機関車の入出庫を間近に眺め、堪能できる。

日本統治時代の扇形車庫が現役。
写真/片倉佳史

扇形車庫
住所:彰化市彰美路一段1号
電話:04・7624438
開館時間:13時〜16時(土日は10時〜)
料金:無料
定休日:月曜
交通アクセス:台鐵彰化駅より徒歩約10分

途中下車して台鐵ファンが集う食堂へ

彰化駅から台南方向に5駅、普通電車で25分の社頭駅に着く。ここには台湾の鉄道好きに知られる『福井食堂』がある。

台鐵社頭駅。社頭は台湾で製造される靴下の約9割を担う、靴下の故郷。駅前には台湾織襪文物館(台湾靴下博物館)もある。

台鐵ファンのオーナーが腕を振るう『福井食堂』

父も祖父も台湾鐵道の駅員だったという店主の陳朝強さん(50歳)が24年前に開店。店の入口は電車の車体を模し、店内には荷物棚や座席番号のついた席、壁一面に収集した駅弁の箱が飾られている。料理は鶏のから揚げや鯖の塩焼き、鰻重などがあり、持ち帰りも可能。店の2階は展示室で、鉄道模型や部品、制服や制帽など台湾鐵道に関するものが置かれ、圧巻。日本の鉄道会社とも交流があり、日本の鉄道ファンも集う。

列車の車内にいるような店内。店先には台湾糖業鉄道の車体もある。店名は福井県の酒蔵で「社頭」の銘柄を見つけ、縁を感じ命名。
持ち帰りができる弁当。右は鶏のから揚げ・鶏腿飯130元、左は鯖の塩焼き・鹽烤花飛魚100元。地元でも評判の旨さで、香辛料を抑えた日本人好みの味付けだ。
2階の展示室に並ぶヘッドマークなどの収集品。2階へは店主に声掛けすれば見学自由。展示品は収蔵品の10分の1程度という。

福井食堂
住所:彰化県社頭郷社斗路一段336号
電話:04・8710350
営業時間:10時~13時30分
定休日:日曜
交通アクセス:台鐵社頭駅から徒歩約7分

収集品の多様さと内容に目を見張るさまは上記の通り。食堂としても地元の評判がいい。

ここまでは立ち寄り先を台北から駅順に紹介してきたが、平日に1日で巡るなら、まず社頭駅で降りて『福井食堂』を訪ね、彰化駅へ引き返す必要がある。それは扇形車庫の見学が13時からで、『福井食堂』の営業時間が13時30分までだからだ。時刻表を睨みながら訪問順を検討するのもちょっとした冒険気分を味わえる。

彰化駅から台南駅までは特急(自強号)で約1時間40分。嘉義駅を越えた付近で列車は北回帰線を越える。鉄道の旅を満喫し、台南駅へと到着した。

嘉義駅付近の北回帰線を境に、北側は亜熱帯、南側は熱帯となる。植生が次第に変わり、車窓には椰子の木が目立つようになる。
日本統治時代に建造された台南駅には、かつて2階にホテルやレストランがあった。復活を目指してリノベーションが進められている。
写真/片倉佳史

解説 片倉佳史さん(台湾在住作家・武蔵野大学客員教授)

昭和44年、神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。台湾に遺る日本統治時代の建造物を記録している。著書に『増補版 台北歴史建築探訪』『台湾に生きている日本』など。台湾事情をテーマに講演活動も行なう。

文・写真/片倉佳史

●1元(NT$)は約5.2円(両替時・11月20日現在)

※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。

【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する

72ページ総力取材。完全保存版別冊付録。
『サライ』2024年1月号【別冊付録】は『台湾の古都「台南」を旅する』。

 

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