ふぐ刺し、ふぐちり、焼きふぐ、創作料理…。さまざまな「福」を呼ぶ魚をたらふく食す。
全国には様々なふぐの調理法と食べ方がある。薄切りの刺身であるてっさから鍋のてっちり、焼きふぐや珍味まで。ワインとの相性も知り、ふぐを取り寄せて自宅でも楽しみたい。
愛知県知多半島の先端から約2km、三河湾に浮かぶ日間賀島(ひまかじま)。周囲約5.5kmの小さい島ながら漁業が盛んで、ふぐの延縄漁は100年前から行なわれているという。またコロナ禍以前は、平成17年から毎年「てっさコンテスト」が開催され、島内の料理人たちが刺身の盛り付け技術を競い合った。
今や島内の宿の多くがふぐ料理を提供しているが、その第一人者となったのが『アイランドホテル浦島』の加藤善隆さん(72歳)だ。
「ふぐ漁は盛んでも、ひと昔前まではふぐを捌ける料理人が島にいませんでした。そこで、島の名物を生み出そうと、料理人仲間に呼びかけてふぐ処理師の免許をとりました。昭和51年のことです。若い料理人たちが後に続いてくれたおかげで今は“ふぐの島”として認知されるようになりました」
立体感のある菊、丹精な鶴
宿泊者に供されるのは、加藤さんが島の漁師から直接仕入れたふぐのコース料理。白子豆腐やてっぴ(皮)のラー油和えに始まり、煮凝り、薄造りのてっさへと続く。コースにより鶴、あるいは菊の花を模した盛り方で登場する。
「てっさはふぐ料理の華。鶴、菊ともに、刺身の先端を少し折り曲げて立ち上がるように盛り付けますが、いかに美しく立ち上げられるかで見栄えが変わります。身の水分が多いと身は縮み、逆に少なすぎると身が綺麗に立ち上がりません。つまりてっさは、ふぐの水分のコントロールが要となります」
そう説明する加藤さんは、水抜きに注力。トラフグを下ろした身にさらしを巻き、25kgの鉛で重しをする。かなりの重量となるが、弾力のあるふぐからしっかり水分を抜くための最適解という。その状態で1日半かけて水抜きをすることで、味も締まる。
「うちのてっさは、ふぐの旨みを楽しめるように少し厚めです」と加藤さんがいうとおり、刺身に歯がしっかり食い込む食感は心地よく、噛むほどに旨みが増す。橙を用いた爽やかな自家製ポン酢がふぐの持ち味をさらに高める。
目にも美しい美味なるてっさを求め、日間賀島へ渡る価値がある。
アイランドホテル浦島
愛知県知多郡南知多町日間賀島熊ノ前21
電話:0569・68・2356
チェックイン14時30分、同アウト10時
料金:1泊2食付き、ひとり2万800円~ 15室。
交通:河和港より高速船にて約20分、東港より徒歩約10分 送迎あり。
加藤さんが薦める招福スポット
日間賀神社
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。