湯の郷には旨いものがある。自然の豊かな場所に古くから人が住み着き、山海の食材を用い、独自の食文化を形成してきたからだ。こんこんと湧く湯で体を休め、冬の美味を堪能したい。
宮城の名産「仙台せり」を牛テールスープで上品に
別邸 山風木(宮城)
古くは湯治場として栄えた蔵王の遠刈田温泉。温泉街から離れた雑木林に囲まれる『別邸 山風木(やまぶき)』は、食を愉しむオーベルジュである。2300坪の敷地には、中庭を囲む客室や、愛犬と宿泊できる離れなどが全13室あり、凛とした空気と静寂が心地よい。
宿は、館内での飲み物が料金に含まれる方式をとる。料理と好みの酒を存分に味わってほしいという想いからだ。夕食は自由に取り分けて食べるおばんざいと、創作料理のコース仕立てという形式。11月中旬からは宮城の名産、「仙台せり」を使った鍋が登場する。「コース料理の前菜、お造りのあとにスープという位置付けで芹鍋をお出しするのですが、メイン料理よりもこちらを目当てに来られる方が多いですね」と支配人の佐々木渓一さんは話す。
芹鍋は、じっくり煮込んだ牛テールスープに料理長秘伝の和風出汁で味付けされている。深みとコクのあるスープに芹の香りが重なり、根際の甘みが格別でシャキシャキとした食感も楽しい。芹鍋の醍醐味が味わえるのは、スタッフ総出で泥の残る根際を歯ブラシなどで丁寧に掃除する作業のおかげ。使用する芹は有機農法で栽培する名取市の三浦農園のもののみ。豊かな地下水をくみ上げて育てる柔らかい芹は鍋に最適である。
保湿効果の高い緑がかった湯
美食を堪能した後は温泉で寛ぎたい。自家源泉は「湯刈田温泉」と名付けられ、毎分200Lと豊富な湯がかけ流されている。よく温まる湯は体のコリをほぐし、肌を滑らかにし、保湿効果も高い。大浴場のほかに予約不要のふたつの露天の貸切風呂もあり、ただ星々を眺めるだけの贅沢な湯浴みの時間が過ごせる。
温泉に癒され、食の悦びに浸り、何もせずにゆるりと滞在する。それが目的となる宿である。
別邸 山風木
宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉字小妻坂21-70
電話:0224・34・2711
料金:2万7500円~
チェックイン15時、同アウト11時
泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉
交通:JR仙台駅から宮城交通バス遠刈田行きで約1時間、小妻坂下車、徒歩約7分
取材・文/関屋淳子 撮影/藤田修平
※この記事は『サライ』本誌2023年12月号より転載しました。