文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
バンコクのマハセット通り。チャオプラヤー川がすぐそばにあり、タイ国内外との運河物流の拠点となった歴史あるエリア内にあります。今、ここに評判のレストランが数多く集まっています。
「レント代が比較的安く、しかしロケーションは悪くないから、若手のシェフたちが店を出しやすいんだよ」というのはシャリー・カダールさん。
シャリーさんの店の名前は『100マハセット』。住所の番地名をそのまま使っています。2018年9月にオープンしたこの店はイサーン(タイ東北地方)料理の専門レストラン。特に力を入れているのが彼が大好きな肉。素材のセレクトには妥協をしません。イサーン各地の農家と契約、牛一頭を‟ヘッド・トゥ・テイル(頭から尻尾まで)”使うメニューを考案しています。
「イサーン地方では結婚式などで牛や豚を丸ごと使ってお祝いをするんだ。その楽しさをバンコクの人たちにも味わって欲しくてね」とシャリーさんは言います。
木材を使った店内は田舎風の暖かい雰囲気、約30席とこぶりなので週末の夜はすぐ満席になってしまいます。
同店のシグネチャーメニューはボーンマロウ(360バーツ=約1440円)。牛の大腿部の骨を割り炭火の中でじっくり焼いています。中の白い骨髄部分をシソの種などと一緒にいただきますが、これがワイルドな印象とは裏腹の優しい味。
グリルド・ブレイズド・オックスタン(490バーツ=1960円)は3週間熟成させた雄牛の舌を蒸し煮にし、最後に焼いた物。食感が残りながらも柔らかくて最高の状態です。
オックステール・ゲーンキーレック(380バーツ=約1520円)は、タイの伝統料理の一つであるタガヤサンの葉とココナッツミルクを煮込んだスープに、雄牛の尻尾を加えた料理。正に尻尾まで使い切っているのです。
フライド・ポーク・インテスティン(220バーツ=約880円)は豚の内臓を揚げた料理で、タイ料理によく使われてる甘辛ソースをつけて食べます。ポイントはその容器。某ファストフードチェーンのフライドポテトのパロディになっているのです。
「メニュー開発している時にふと思いついたんだ。面白いだろ。何だこれは? って客を喜ばせたいんだよ」とニコニコ顔のシャリーさん。
タイの人が持つイサーン料理のイメージはあか抜けない田舎風。しかし、シャリーさんは豊富なアイディアを駆使しておしゃれで楽しい料理へと進化させたのです。
当然、グルメな人々の間で話題を呼び、高級住宅街であるスクンビット地区に2号店を出しています。
またタイ版ミシュランガイドでも2018年から5年連続でビブグルマン(*)に選ばれています。
*星評価ではありませんが、安価でおすすめできる料理を提供しているレストランに与えられています。
「ビブグルマンに選ばれていることはとても光栄だし、スタッフたちの励みにもなっている。素材を提供してくれている農家の評価も上がり注文が増えているそうだ。何よりイサーン料理の地位が向上することに寄与していることが嬉しいね」
料理のアイディアは天から降ってくるというシャリーさん。これからも人々を驚かせる料理でイサーン料理を盛り上げていくことでしょう。
100マハセット:https://www.100mahaseth.com/
文・写真/梅本昌男
(タイ・バンコク在住ライター)。タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅する。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。