文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
世界的に悪名高いバンコクの交通渋滞。コロナ禍の時期はさすがにその渋滞も緩和していましたが、再び悪化しています。そんな中、企業はそれを逆手に取り、道路脇のビルボード(屋外看板)を広告戦略に活用しています。数十分経ってもほとんど動かない事もよくある渋滞状況は、運転をする人々に自社をアピールする最高のチャンスだからです。
国際的調査会社ニールセンが発表した昨年(2022年)1~9月のタイ全体の広告費は880億バーツ(約3,430億円)。媒体別では1位がテレビで474億円(約1,850億円)と半分以上を占めています。2位がインターネットで198億バーツ(約772億円)、そして3位にビルボードを含む屋外広告が97億バーツ(約378億円)でランクインしています。割合でいうと約11パーセントになります。
日本の場合もテレビが1位、インターネットが2位と、ここまでは同じ。しかし屋外広告の割合は全体の4パーセントにとどまっています。タイの屋外広告の重要性が数字で見えてきます。
ちなみに、広告を出すクライアントのジャンルは1位が飲食業界、2位がパーソナルケア&化粧品業界、3位が小売り業界になっています。
また屋外広告の見せ方もユニークです。高さ304メートルとタイでは3番目に高い建物であるバイヨーク・スカイ・タワー。階下はモール、上階はホテルになっています。このビルの壁面を広告に使っていますが、すごく目立ちますよね! この時はJIBという地元のIT製品販売会社の広告でした。
建物の壁を広告で覆うビルラッピングがタイで流行していて、現地広告会社の人が「大きさがアピール度に比例すると考えるクライアントが多いから」とその理由を話していました。昭和の「大きいことはいいことだ♪」というCMを思い出してしまいます。
一方、交通渋滞から車での通勤を諦めた人々に向けても広告会社は手を打っています。1999年に開業したバンコク市内を走るBTS(高架鉄道)。当初は料金が高いことから乗客数が伸びませんでしたが、渋滞悪化と中間層の増加を背景に、現在1日の乗降客は90万人まで増加。改札を入って階段広告、プラットフォームの上には広告看板とLEDディスプレイ、車内にも広告、そして電車その物まで広告でラッピングされています。
そして、タイ名物の三輪タクシーのトゥクトゥクも宣伝に活用されています。車体の横と後ろを利用して各企業の広告を出しているのです。こういった広告、コロナ禍で観光客がほとんどゼロになった時期、トゥクトゥク運転手たちの収入に寄与したということです。
ここ数年、珍しい屋外広告をよく目にするようになりました。推しのアイドルの誕生日などを祝う広告です。上記のトゥクトゥクやショッピングセンターのLEDなどを利用するもので、タイはもちろん、日本、韓国のアイドルの顔を目にします。LED利用の物は料金が高いので、ファンクラブの会員などがお金を出し合って広告を出すそうです。
バンコクへ観光に来て渋滞に巻き込まれた際は、タイならではの屋外広告を見て気分を紛らわせてください。
文・写真/梅本昌男
(タイ・バンコク在住ライター)。タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅する。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。