新たな藤吉郎(演・池松壮亮)の草履譚。(C)NHK

ライターI(以下I):さて、今週は有名な秀吉の草履取りのエピソードがアレンジされていました。藤吉郎(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)が、草履をくすねようと懐に入れたところに信長(演・小栗旬)がやってくる、という流れでした。もともとは、寒い時期に藤吉郎が信長の草履を懐で温めて、信長から褒められるという話でしたから、「ん?」と思った視聴者もいたかもしれません。

編集者A(以下A):草履を懐で温めていたという藤吉郎の有名なエピソードの出典は、『絵本太閤記』。初版刊行が寛政9年(1797)の作品になります。

I:あ、その年は昨年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公蔦重(蔦屋重三郎/演・横浜流星)が亡くなった年じゃないですか。

A:そうなんです。豊臣秀吉が亡くなって(1598年没)、ほぼ200年が経過したころです。初編が好評だったため、5年かけて84巻刊行されるヒット作になりました。蔦重と同じ時代につくられた物語ということで、『べらぼう』で染谷将太さんが演じた喜多川歌麿も『絵本太閤記』のヒットに触発されて、『太閤五妻洛東遊観之図(たいこうごさいらくとうゆうかんのず)』と題した浮世絵を出版したほどです。

I:つまり、草履を温めるというエピソードは、秀吉が亡くなってから200年後に描かれた物語ということなのですね。

A:現在は、大河ドラマが始まると関連する書籍が多数刊行されますが、大河ドラマ黎明期の1965年の『太閤記』にはすでにそうした枠組みがあったようです。同年に刊行された『太閤記の研究』(徳間書店)の著者は、戦国史の大家だった桑田忠親先生ですが、同書には、「太閤秀吉の伝記には『天正記』や『太閤軍記』のように史実に近い、立派なものもあるが、(小瀬)甫庵の『太閤記』以来、時代を降るにつれて、真偽混淆の作が多くなり、一方にはこれが伝説化され、物語化され、この虚説が大衆の間に流布されたのである。即ち、太閤伝説や、太閤物語には、驚くべきほどの嘘が多い。しかもこの嘘が太閤秀吉その人の面目を、さして傷つけることなく、立派に通用しているのは、いかなるわけであろうか――」と解説しています。一方で、そうした「伝説」「物語」を無意味なものとは考えておらず、「これらの伝記物語を研究することは、約言すれば、太閤に関する史実が、いかに伝説化され、物語化されたかを明示すると同時に、この蓋世(がいせい)の英雄が、その在世中に、もしくは、死後において、いかにわが国民の間に崇拝され、敬慕され、私淑されたかを、認識することとなるのである」というのです。

I:太閤秀吉が亡くなって200年後に紡がれた『絵本太閤記』の草履のエピソードが、さらに200年以上経過した令和の時代に、どのような物語に「深化」したのか――。なんだか、大河ドラマが担っている役割のようなものの一端が見える気がしますね。

A:というわけで、よく知られた草履のエピソードを大胆にアレンジした『豊臣兄弟!』ですが、これが「令和の太閤記」ということになるのでしょう。実は、この「草履を温める」のエピソードにはパラドックス的な「元ネタ」があるのが歴史の面白いところです。若狭小浜藩の初代藩主酒井忠勝は第3代将軍徳川家光の側近として知られていますが、小浜藩の記録には、酒井忠勝が徳川家光の草履を懐で温めていたというエピソードが収録されているのです。

I:なるほど。小浜藩の公式記録に掲載されたエピソードを『絵本太閤記』の作者が参考にしたかもしれないということですね。なんだか面白いですね。

A:ついでに言及すると、2017年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』では、菅田将暉さん演じる井伊虎松が万千代と名を改め、井伊家を再興したいという流れの中で、徳川家康(演・阿部サダヲ)から「草履番」を命じられる回(第40回「天正の草履番」)がありました。家臣の中でも軽輩の者がやるような草履番という職掌を与えられたことを万千代の周囲が屈辱と認識したという展開でしたが、家康側近の本多忠勝(演・髙嶋政宏)が、万千代に対して、かつて羽柴秀吉は信長の草履取りとして忠勤を励んで引き上げられたことを示して、「どこにおっても才覚は人が見ておるもの」と励ました場面がありました。

I:なるほど。なんだか面白いですね。その菅田将暉さんが、『豊臣兄弟!』では、竹中半兵衛を演じることが発表されています。『おんな城主 直虎』の井伊万千代(井伊直政)、『鎌倉殿の13人』の源義経に続いての大河ドラマ登場です。

A:竹中半兵衛は藤吉郎の「軍師」で、織田家の美濃攻略に功績のあった人物として知られています。菅田さんがどんな半兵衛を演じるのでしょうか。

猿真似をする藤吉郎。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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