文/ケリー狩野智映(海外書き人クラブ/スコットランド・ハイランド地方在住ライター)

スコットランドは「世界5大ウイスキー」に数えられるスコッチウイスキーの産地。ウイスキー愛好家を自称する筆者にとっては、「ウイスキーの聖地」である。スコッチウイスキー協会の最新データによると、現在稼働中のウイスキー蒸留所は142か所。北海道と同レベルの面積と人口でこれほどの数の蒸留所があるのだ。

「ウイスキーの聖地」スコットランド。写真はハイランド地方のダルウィニー蒸留所。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Dalwhinne_Distillery_-_panoramio_(3).jpg

スコッチウイスキーは、スコットランドにとって極めて重要な輸出品目であるだけでなく、主要な観光収入源でもある。「スコッチウイスキー観光」は、スコットランド国立博物館とエディンバラ城に続いて3番目に人気のあるスコットランドの観光アトラクションなのだ。ここで言う「スコッチウイスキー観光」とは基本的に蒸留所見学ツアーのことで、コロナ禍前の2019年には220万人がスコッチウイスキー蒸留所見学ツアーに参加している(スコッチウイスキー協会データ)。

2021年9月にエディンバラにオープンした「ジョニーウォーカー・プリンスズストリート」

そうした中、「見学型」が主流だったスコッチウイスキー観光を新次元に引き上げているのが、2021年9月にスコットランドの首都エディンバラに鳴り物入りでオープンした「ジョニーウォーカー・プリンスズストリート(Johnnie Walker Princes Street)」。

ブレンデッドスコッチウイスキーの大御所ジョニーウォーカーが7階建ての格式ある建物で展開するこのビジターセンターは、「劇場」、「光と音のショー」、「カスタム試飲」、「食」を融合させて五感を刺激する、エンタメ要素満載の体験型観光施設である。スコッチウイスキー観光に1億8500万英ポンド(315億円超)を投資するという親会社ディアジオの戦略の中核として、4年半の歳月をかけて築き上げられた。

予約直後からこみ上げるわくわく感

ここの目玉アトラクションである「ジャーニー・オブ・フレーバー(Journey of Flavour)」ツアーは、直訳すると「風味の旅」。ウイスキーにまったく興味のない人でも、子供でさえも(ただし8歳以上)、1時間半という時間があっという間に過ぎてしまうほど楽しめる没入型ツアーだ。ちなみに筆者はすでに2回体験している。

わくわく感はツアーを予約した直後からこみ上げてくる。公式ウェブサイトで予約を済ませると確認メールが届き、フレーバークイズを受けるように促される。

フレーバークイズの一画面。

クイズは「ピニャ・コラーダはいかが?」などのシンプルな質問で、スライダーで好みの度合いを答える仕組みになっている。これで各参加者の好みのフレーバープロファイル(香りと味わいの特徴)を判定するわけだが、これがなかなか楽しい。

まるでミニ劇場

筆者の2回目のツアーは「フレッシュ」のフレーバープロファイルでリストバンドは緑色。
アルコールを飲めない娘(10歳)は白色のリストバンド。

ツアー当日、グラウンドフロア(日本の1階)のレセプションでチェックインしてクイズ結果に応じた色のリストバンドを受け取る。参加者全員が集まると、ガイドさんと一緒にエレベーターでセカンドフロア(日本の3階)へ移動し、スタート地点となる小部屋で簡単な説明を受ける。

ツアー開始前の説明では、ウイスキーに関する誤解を解くことも目的だとガイドさんが熱弁。

その後、まるでミニ劇場のような細長い部屋に案内され、備え付けの椅子に腰を下ろす。「舞台」の左端にはスタッフの1人が腰かけており、ガイドさんから紹介されると、世界一の売上げを誇るウイスキーブランド、ジョニーウォーカーの物語を語り始める。

大掛かりな舞台装置と小道具を駆使して語られるジョニーウォーカーの物語。

元役者かと思うぐらいの演技力を持つスタッフの語り口と、大掛かりな舞台装置や小道具を駆使して展開されるショーに視覚と聴覚が大いに刺激され、物語にどんどん引き込まれていく。

次々と変わる舞台セット。ツアーごとに「役者」は異なるようで、筆者の2回目のツアーでは女性だった。
創業者ジョン・ウォーカーをモチーフにした有名なロゴとポーズ。

最初の試飲

ジョニーウォーカー物語のショーが終わると、次の部屋へと案内される。ここは最初の試飲室。

最初の試飲室。ここではそれぞれのフレーバープロファイルに応じたハイボールを試飲。

細長い試飲室の両側の壁には、ハイボールディスペンサーとグラスが並んでいる。グラスの底にはリストバンドと同じ色のホルダーのようなものがついおり、その中に内蔵されたデータチップをハイボールディスペンサーが読み取って、それぞれの色が象徴するフレーバープロファイルのハイボールが自動給仕されるのだ。

グラス内蔵のデータチップを読み取って給仕するハイボールディスペンサー。

筆者が2回目のツアーで味わった「フレッシュ」フレーバープロファイル(緑色)のハイボールのベースは、モルト原酒だけをブレンドしたグリーンラベル。これにテーブルの中央に用意されている各種ガーニッシュを加える。「フレッシュ」のハイボールにはドライローズがおすすめということで試してみたが、確かにみずみずしい香りと爽やかな味わいが心地良かった。

「フレッシュ」のハイボールにドライローズをプラス。

光と音のショー

試飲が終わるとまた別の部屋に案内される。ここでは、ジョニーウォーカーのモルト原酒を製造している4つの主要な蒸留所(クライヌリシュ、カーデュ、グレンキンチー、カリラ)のウイスキーの特徴やウイスキー製造の工程が説明されるのだが、これがまさに光と音のショー。さらに、嗅覚に訴えかける小道具も登場する。

照明と音響と小道具を駆使。

その次の部屋では、ウイスキーの代表的な香りと味わいに関する解説や、マスターブレンダーたちによる自分たちの「作品」の説明を視聴するのだが、これまたハイテクを駆使した演出に圧倒される。

ハイテク演出が印象的。

再び試飲!

2回目の試飲に向かう前に通る通路でクイズ。「ウイスキーの正しい楽しみ方は?」

ツアーの締めくくりは、専用のバーで2度目の試飲。今度は、ハイボールかオールドファッションドのウイスキーカクテルから好きなものをメニューで選んで2種類試飲できる。ウイスキーだけの試飲も可。お酒を飲めない人にはノンアルコールのカクテルが用意されているのでご心配なく。

ツアー専用のバーで2種類のカクテルまたはウイスキーを試飲。

ここでは約15分過ごすのだが、ドリンクを味わいながらガイドさんやバーテンダーにいろいろ質問したり、他の参加者と意見を交わしたり、インスタ映えする写真を撮影したりしていると、時間が飛ぶように過ぎてしまう。

グラウンドフロアはディアジオ傘下のウイスキー銘柄各種のほか、ここでしか手に入らない銘柄やアパレルなどのグッズを購入できるショッピング空間。

我が娘が「エディンバラに行ったら必ず寄りたい」と言い出すほどの魅力を発揮しているこの体験型ビジターセンターには、オープン以来すでに世界120か国からおよそ50万人が訪れている。うち56%がスコッチウイスキーを定期的に飲んでいなかった人、そして50%が女性という統計を見ると、新しい顧客層を惹きつける戦略の大当たりだ。現在ツアーは英語のみだが、他言語のオプションも検討中だそうだ。

屋上階のバーでは、エディンバラ旧市街のスカイラインを眺めながら、ドリンクと地元の食材を活かした料理を楽しむことができる。

だが、すべてがバラ色というわけではない。過剰飲酒による健康・社会問題が深刻なスコットランドでは、政府が昨年末から今年3月上旬にかけて、アルコール飲料の広告やマーケティングを禁止する新法案に対する広聴を実施し、アルコール飲料業界だけでなく、広告業界や観光・イベント業界も大きく揺れている。この法案が実際に法律として可決・施行されれば、果たしてここはどうなることか。

そんな不安があるのも事実だが、とにかく百聞は一見に如かず。エディンバラを訪れる機会があれば、ぜひ体験して欲しい。

ジョニーウォーカー公式ウェブサイトのジョニーウォーカー・プリンスズストリートのコーナー:https://www.johnniewalker.com/en-gb/visit-us-princes-street/

文/ケリー狩野智映(スコットランド在住ライター)
海外在住通算29年。2020年よりスコットランド・ハイランド地方在住。翻訳者、コピーライター、ライター、メディアコーディネーターとして活動中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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